明日香:アヴィーズ村の畑、フォス・オ・プルソーに到着しました。この畑について教えてください。

ギヨーム:ここは私の祖父が買った畑で、1930年代に植えられたブドウ樹が多いですね。樹齢は90年ほど。ただし、寿命を迎えた樹から若い樹に替えているので、なかには樹齢4~5年の樹もあります。古木は根の太さがぜんぜん違う。古木のほうが太く、かなり深くまで伸びています。
 ここの畑のブドウからシュブスタンス(ジャック・セロスの最高級銘柄)のベースワインが造られています。アヴィーズ村には東向きの畑が多いのですが、ここは南向きのスロープでかなり珍しく、しっかりとした日照量がとれます。
 また、アージル(=粘土)の多い土壌で、ワインの味わいにまろやかさを与えます。石灰由来のブドウのミネラル感ととてもよい組み合わせなんです。

明日香:ギヨームさんは何歳くらいから畑に来ているの?

ギヨーム:私が畑仕事を手伝い始めたのは10歳のとき。それまでは畑の中で遊びまわっていました。ブドウを食べたりね。
 父が樽からワインをピペットで吸い上げ、テイスティングする姿がすごく格好よくて、いつくらいだったかは覚えていないけど、誰も見ていないときにこっそり真似をして練習し、ついでに味見もしてたんです(笑)。
 その後、ドメーヌ・ジャック・セロスで本格的に働きだしたのは2012年からです。

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こちらの2本はギヨームさんが造った最初のキュヴェ。右はブラン・ド・ブラン、左はブラン・ド・ノワールで、どちらも樽内でなんと3年間の長期熟成。その後、瓶内2次醗酵、瓶内熟成を経て、収穫年からリリースまで7年もの月日を経ている。

明日香:ギヨームさんのワイン経歴を教えてください。

ギヨーム:私は18歳のときに科学系の高校を卒業して、その後、ボルドーのサンテミリオンにあるワインビジネススクールで2年学びました。
 もともと、畑と向き合うことは自分には向かない、週末もないし、イヤだと思っていたんです。畑仕事は何か悪いことをした際の罰のようなものでした。でも自分の進路をいろいろ考えたときに、父にブドウ畑を手伝わせてほしい、ワインの専門学校に行かせてほしいとお願いしました。祖母から僕だけの新しい畑をプレゼントされたこともきっかけのひとつです。当時はまだ、自分の父がこんなに素晴らしいシャンパーニュを造っているとはわかっていませんでした。
 専門学校で学ぶうちに、いかに自分にとってワインが身近で自然なものか気づきました。ワインに本格的に興味をもつようになったのも学校に入ってから。多様なテロワールと造り方を知り、私の父がオリジナルの工夫を凝らした偉大な造り手であることを理解し、心から仕事を継ぎたいと思いました。
 現在、ドメーヌ・ジャック・セロスのブドウ畑は8ヘクタールありますが、このうち「ギヨーム・エス」としてリリースしているのは、オー・ドシュ・デュ・グロモンという、年間生産量は小樽1個分(225リットル)の、ごくごく小さな畑です。これは先ほどお話しした畑で、2008年、私の18歳の誕生日祝いに祖母が買ってくれました。「毎年この畑からできたワインをボトルに入れてくれたら、畑を買ってくれたおばあちゃんのことを忘れないでしょ!」とプレゼントしてくれたんです。

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ギヨームさんのシャンパーニュのテイスティングは、父のアンセルムさんが経営するオテル・アヴィゼのお庭にて。ちなみにホテルの客室名には「サンテ」「サルーテ」など、さまざまな国の「乾杯」を表す言葉がつけられている。もちろん、「カンパイ」のお部屋も。

明日香:今後は、ドメーヌ・ジャック・セロスのキュヴェとギヨーム・エスのキュヴェ、どちらもやり続けるのですか?

ギヨーム:もちろんです。父からは「2~3年後には引退するから、そのときは、すべての鍵を渡す!」と言われています。ジャック・セロスで仕事を始めた2012年当時は、自分自身の考えが確立してなくて、インタビューを受けても何も話せませんでした。今では自分なりのアプローチや哲学ができてきて、熱い思いでワインを造っていることをこのようにお伝えすることができて嬉しいですね。
 父から「鍵」を受け継ぐことは私のキャリアにとって、とても大きな出来事となります。私なりのやり方で、まだまだ探求していくつもりです。

――目をキラキラさせて、ワインへの想いを熱く語るギヨームさん。インタビューの翌月には結婚されるということもあり、公私ともに新たな挑戦に満ちている様子がうかがえました。

杉山明日香
理論物理学博士。ワイン研究家。唎酒師(ききざけし)。
有名予備校で数学講師を務める傍ら、ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」にてソムリエ資格試験対策講座を主宰。東京・西麻布のワインレストラン&バー「GOBLIN」、パリの和食店「ENYAA Saké & Champagne」を経営するほか、ワインと日本酒の輸出入業も。東京とパリを2週間ごとに行き来する多忙な日々。著書に『ワインの授業 フランス編』『ワインの授業 イタリア編』『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座』など。

Photos:Yuji Ono Text: Asuka Sugiyama Editor: Kaori Shimura 

前編

杉山明日香のシャンパーニュ紀行 Vol.1 ドメーヌ・ジャック・セロス〈前編〉

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