日本の伝統技術によって醸し続けられる国酒「日本酒」。その魅力をより深く知るため、キーワードに沿ってストーリーある3本を紹介する。今月は、伝統的な製造方法である「生酛(きもと)造り」のお酒をラインアップした。

[画像のクリックで拡大表示]

 昔ながらの技法である、酒母を手作業で造る「生酛」。技術や設備が進化した現在において、あえて時間も手間もかかる製法で醸したお酒には、特有の風味が宿る。今回は、創業以来、生酛造りを続ける蔵と、近年新たに挑戦した蔵の日本酒をセレクト。

生酛造り一筋の蔵が誇るロングセラー「初孫 純米本辛口 魔斬」

[画像のクリックで拡大表示]
「初孫 純米本辛口 魔斬(まきり)」720ml ¥1,348(税込)

「魔斬」とは、蔵がある酒田市に伝わる、漁師などが使う切れ味鋭い小刀。魔を斬る、魔除けの縁起物とされている。その名前にふさわしいシャープなキレのよい味わいが特徴で、後味もすっきり。生酛らしいずっしりとした芯の太さと同時に、米の香りを感じ、洗練された豊かなコクも伴う。冷やではスッと切れるような印象だが、ぬる燗にするとまろみを帯びたような奥深さが感じられ、温度による表情の違いも興味深い。同銘柄で、純米大吟醸の「黒魔斬」、純米生原酒バージョンの通称「赤魔斬」も展開する。

 江戸時代に「西の堺、東の酒田」とうたわれ、海上交通の要所として栄えた港町。回船問屋を営んでいた初代佐藤久吉氏が、「金久(きんきゅう)」という銘柄で酒造会社を始めたのは明治26年(1893年)のこと。昭和初期、長男が誕生したのを機に、皆に愛され喜ばれる酒にしたいと願いを込め、酒銘を「初孫」と改めた。創業以来、全量を生酛で醸すのは、全国でもわずか数蔵のみだ。平成6年(1994年)には、最上川の南、砂丘地の十里塚地区に新工場を建設資料館「蔵探訪館」も併設しているので、訪れてみてはどうだろうか。


東北銘醸
山形県酒田市十里塚字村東山125-3
TEL:0234-31-1515
http://www.hatsumago.co.jp/

篤農家と酒蔵、双方の信条をかたちにした「七本鎗 無農薬 無有 生酛」

[画像のクリックで拡大表示]
「七本鎗 無農薬 無有 生酛」720ml ¥2,600(税別)

 農薬を「無」くすことで、新たな価値「有」るモノが生まれるという意味が込められた「無有(むう)」。初リリースから10年目となる今年、無農薬米「玉栄」を使い、2017年に蔵として初めて挑んだ生酛造りで醸し、1年以上熟成させたファーストヴィンテージが出荷された。精妙な旨味を丁寧に紡いだような立体感ある味わいで、おおらかに伸び、余韻は穏やかに消えていく。静かさの中に、迫力を併せ持っているよう。既存の「無有」のニュアンスに加え、生酛らしい乳酸によって生まれる味わいの幅が楽しませてくれる。

 天文3年(1534年)、琵琶湖の最北端にある木之本宿に創業した冨田酒造。「無有」からも伝わってくる通り、15代目の冨田泰伸さんの酒米への想いは深い。無農薬米においては、2010年より、地元契約栽培農家の家倉敬和さんとタッグを組み、雑草や気象状況と闘い続けてきた。農薬を一切使わない酒米発酵が緩やかであるといい、自然な柔らかさと優しさ、芯の強さを感じる。田んぼの光景が目に浮かぶようなラベルには、豊かに実った稲穂とバッタが描かれ、かつて蔵に逗留していた北大路魯山人が残した「七本鎗」の文字が趣を添えている。


冨田酒造
滋賀県長浜市木之本町木之本1107
TEL:0749-82-2013
www.7yari.co.jp/