理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

テロワールを完璧に表現するための、秘策とは?

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カーヴでは実験的に、さまざまなベースワインがそれぞれ熟成中。

 みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第13回の訪問先は、シャンパーニュ地方のエペルネから西へ車で30分程、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区のフォソワ村に位置する「デウ・ペール・エ・フィス(Déhu Père et Fils)」です。後編では、現当主ブノワさんのシャンパーニュ造りに対する熱い思いを語っていただきました。

明日香:(カーヴにて)このカーヴは、なんだかラボっぽい感じがしますね!

ブノワ:そうです、ここであれこれ実験しています(笑)。これらの樽の中身はすべて違っていて、別々の品種や区画からのワインを寝かせています。

明日香:ブノワさんは樽についてブルゴーニュで学ばれたとおっしゃっていましたよね。樽については、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

ブノワ:実は、樽も自分で作っています。

明日香:えっ?

ブノワ:もちろん、樽の成形は樽屋さんにお願いしていますよ(笑)。自分で作っているという意味は、自分の森の木で作っているということです。このすぐ裏手に森が広がっているんですが、幸いなことに、そこにはオークの木がいっぱいあるんです。私は、このフォソワ村のブドウで造られたシャンパーニュは、この村のオークの木から造られた樽に寝かせることで、“フォソワ”のテロワールが完璧に表現できるのではないかと思っています。究極の考え方ですが(笑)。

明日香:樽までご自分の土地からの木で作られている生産者の方に初めてお会いしました! ちなみに、1樽は何本の木からできているんですか?

ブノワ:3本の大きな木から、ひとつの樽が作れます。

明日香:3本もの木からひとつの樽しか作れないんですね……。あらためて、樽の貴重さを実感しました。

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〈左〉まずは樽からスティルワインの状態でテイスティング。 〈右〉2018年のものなので、まだフレッシュな果実味と生き生きとした酸味が主体。

ブノワ:まず、小さい樽のワインからテイスティングしましょうか。これは、2018年収穫のムニエから造られたワインです。

明日香:ムニエらしい豊かなアロマを感じつつも、一方で心地よい酸味があり、とてもフレッシュな印象です。奥にある大きな樽の容量はどれくらいですか?

ブノワ:2260リットルです。

明日香:この樽の中のワインは?

ブノワ:リザーヴワインで、3年以上寝かせています。

明日香:いくつかのヴィンテージがブレンドされているんですか?

ブノワ:そうです。隣の2つの大樽にもリザーヴワインが入っていて、それぞれの特徴を保つために中身は全部違うんです。これらは秘密のリザーヴワインで、基本的に私しかテイスティングしないのですが、せっかくなので明日香さんもぜひテイスティングを。

明日香:秘密のワインをありがとうございます! これそのままで、素晴らしい味わいの白ワインですね。これを瓶に入れてシャンパーニュになったら、と思うと、将来が本当に楽しみです!!