理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

ロックダウンを逆手に取り、より美味しいブドウづくりを実現

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晴天に恵まれた初夏のキュイ村の畑にて。アドリアンさんと。

みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第22回の訪問は、シャンパーニュ地方のエペルネから車で10分ほど、コート・デ・ブラン地区のフラヴィニー(Flavigny)村に位置する「ドント・グルレ」(Dhondt-Grellet)です。今回は、今、世界中から注目を浴びる新星の若手生産者である2代目当主のアドリアン・ドントさんにお話を伺いました。

明日香:はじめまして! 実は私、今日はひさびさのシャンパーニュで。そして、アドリアンさんにお会いするのをとても楽しみにしていました。よろしくお願いいたします。

アドリアン:こちらこそ、日本からいらしてくださってとてもうれしいです。よろしくお願いします。

明日香:さっそくですが、ドメーヌについて教えてください。

アドリアン:私の家族は祖父の代から、コート・デ・ブラン地区のこのフラヴィニー村に住んでいますが、“ドント”という名前の由来はベルギーのフランドル地方にあります。祖父は第一次世界大戦中に移民として、シャンパーニュ地方へやってきました。農家だった祖父母は、ここより少し南西に位置するコート・ド・セザンヌ地区にあるブドウ畑を買ったのですが、その後、父が栽培農家の娘と結婚したのが大きな転機となりました。私の母の実家であるグルレ家はキュイ(Cuis)村とクラマン(Cramant)村に畑を持っていて、二人は結婚後、シャンパーニュ造りを始めたんです。

明日香:ドメーヌ名の「ドント・グルレ」は、ご両親のそれぞれの苗字から付けられたのですね! まだ新しいドメーヌなのに、世界中のシャンパーニュ・ラヴァーからこんなに注目されているなんて、素晴らしいですね!

アドリアン:そう言っていただけてうれしいです(笑)。

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〈左〉細かく分けられたさまざまなリューディ(区画)について詳しくご教示いただく。〈右〉まだまだ小粒のシャルドネ。果皮も固い。

明日香:(畑に移動して)畑について詳しく教えていただけますか。

アドリアン:はい。ドメーヌ設立の1986年当初、2haの畑からスタートしました。現在は約6ha弱の畑を持っていて、その多くがグラン・クリュのクラマンとプルミエ・クリュのキュイにあります。ここだけで3.5haあって、すべてシャルドネです。ほかにはセザンヌにシャルドネの畑があって、最近、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区の東に位置するアヴネイ・ヴァル・ドール(Avenay-Val-d'Or)村にピノ・ノワールの畑を購入しました。

明日香:私たちが今いるこの畑はどちらになりますか?

アドリアン:ここはキュイの畑です。今ご覧になっているブドウ樹は16列分で0.1haほどあって、やや傾斜のある、東向きの地勢です。この畑のシャルドネから「レ・テール・フィーヌ」(Les Terres Fines)というブラン・ド・ブランを造ります。この辺りのブドウ樹の平均樹齢は25年ですが、私たちのドメーヌの平均樹齢は45年なんですよ。

明日香:平均45年! ということは大半が古木なんですね。この辺りのブドウ樹からはどのぐらいの量を生産されているのでしょうか。

アドリアン:キュイの畑全体からは約1万3000本、クラマンからは約5000本造っています。すぐそこに見えるレ・ノジェ (Les Nogers)の畑は、こことは違うテロワールなので、また違った個性のシャンパーニュができるんですよ 。