理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

醸造家は、ブドウと互いにエネルギーを与えあうもの

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1階の醸造所にて。アドリアンさんはワイルドでチャーミングなイケメン。

みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第22回の訪問は、シャンパーニュ地方のエペルネから車で10分ほど、コート・デ・ブラン地区のフラヴィニー(Flavigny)村に位置するドント・グルレ(Dhondt-Grellet)です。後編は、2代目当主のアドリアン・ドントさんとテイスティングをしながら、お話を伺いました。

明日香:(醸造所にて)シャンパーニュ造りに対する、アドリアンさんの考えを聞かせてください。

アドリアン:まずは何より、ブドウに触れ、気遣っていなければなりません。土壌全体に注意を払い、ブドウの品質を常に確認していくことが重要だと思います。そして、そのブドウを使ってセラーで自分の納得のいくシャンパーニュ造りをしていくなかで、私たちは、ブドウと互いにエネルギーを与えあっているんです。
 またセラーには、そこならではの特別で独特なエネルギーがあるので、セラーの場所というのもとても重要です。私たち家族は皆、セラーで学び、得たものを活かしながら、私たちのシャンパーニュのルーツを尊重すると同時に、ブドウのオリジナリティをきれいに表現できるようにしたいと常に考えています。

明日香:土壌、畑、ブドウ、セラー、人がお互いのエネルギーを共鳴させつつ、シャンパーニュ造りを行っていらっしゃるのですね。

アドリアン:ちょっと哲学的になってしまいましたね(笑)。明日香さん、今、樽で熟成させている2019年のワインをテイスティングしませんか?

明日香:待ってました!(笑)

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樽で熟成中の2019年のクラマンの白ワインをテイスティング。

アドリアン:2019年は、質、量ともに素晴らしかった2018年ほど豊作ではなかったものの、非常にブドウの出来のいい年でした。これはグラン・クリュ・クラマンのシャルドネです。

明日香:柑橘の香りや花の蜜のような香りがほのかに感じられます。また、香ばしい樽香があって、なんて美味しい白ワイン! ブルゴーニュのシャサーニュ・モンラッシェの白みたいです。

アドリアン:実は、私は大のブルゴーニュ好きで、ワインの味わいの仕上がりは常にブルゴーニュを意識しています。なので、両親の代ではワインはステンレスタンク発酵がほとんどだったのですが、私の代になってから、ブルゴーニュ同様に樽発酵を取り入れ、現在では多くが樽発酵、樽熟成のワインとなっています。

明日香:なるほど。アドリアンさんのシャンパーニュって、ワインの味わいにコクを感じるのですが、それは樽発酵からのワインである、という理由もあるんですね。

アドリアン:そうですね。それと、コクはリザーヴワインからもあると思います。リザーヴワインは、両親が1986年からソレラ(=シェリーの熟成システム)のように毎年毎年継ぎ足して、私もそれを受け継ぎ、毎年継ぎ足しているんです。もちろん、品種、村別に分けていますよ。

明日香:1986年から! そこには30年以上前のワインも含まれてるってことですもんね!