「ずっとあなたを愛する」という約束が、守れるとは限らない

柴崎:作家として興味があるのは、そういう恋愛の「やらかし」によって出てくる、人間の面白さ、多面的な部分です。自分自身のことだけでなく、親しいと思っていた人間について、「何もわかってなかったんだ」というのがわかる瞬間ですよね。「やらかし」が、いい悪いは別として。

濱口:でもやらかさないよう無理に自分を抑えているなら、何らかの形でいつか絶対にそのリミッターが外れるときが来るような気はします。それを、より穏やかなもの、社会と調和したものにしたかったら、早めに外しておいたほうがいいのかもしれません。

柴崎:社会と調和した「やらかし」(笑)。確かに、あとで突然おおごとになるよりはいいかもしれませんね。

濱口:朝子の行動も、おおごとではありますが、僕はあれでいいんだと思うんです。朝子が自分の気持ちをさらけ出すことによって、周囲も本音を言えるようになる。本当の関係性って、そういうことによってしか始まらないのではないかと。

柴崎:私もそう思います。人間って、周囲との関係を保とうとするあまり、見せないようにしている気持ちがあったりしますよね。でもそれでは表面的な関係しか築けない気がするんですよ。

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濱口:たとえば結婚では「今日も明日もあなたを愛します」と“仮に”約束しますが、たとえ自分が守りたくても守れるとは限らない。そもそも全面的に信用することなんてできないものとしてあるわけです。朝子の「やらかし」の末に表れるきれいごとでない状況は、「誰かとともに生きよう」と思う人たちなら誰もが本当は抱えている状況なんだと思います。

柴崎:確かに「互いにすべてを理解している、100%信頼できる」なんて、かえって嘘っぽい。この人には自分のわからない部分がある、それでも一緒にいようと思うかどうか。信頼関係ってそういうもの――つまり裏切る可能性も含めて一緒にいる、一緒にいようと決めることが信じることなんじゃないかなと。

濱口:そこから、ようやく本当の関係のスタートするのかなと思います。