映画ジャーナリストの立田敦子さん推薦の、注目作をチェック!

韓国の巨匠イ・チャンドンが村上春樹の短編を映画化
 作家志望のジョンスは、配達のアルバイトに向かう途中で旧知のヘミと再会する。ヘミから、アフリカ旅行に行く間に猫を預かってほしいと頼まれるが、帰国した彼女は、現地で知り合ったベンという富豪の男と一緒だった。3人の不思議な関係は断続的に続くが、ある日、ベンはジョンスに、ときどき納屋を焼いている、と秘密の趣味を告白する。その日からジョンスは納屋をチェックし始めるが、焼かれた形跡は見当たらない……。
 村上春樹の短編『納屋を焼く』を韓国を舞台に映画化。主演を『王の運命-歴史を変えた八日間』(2015年)で韓国の権威ある映画賞「青龍映画賞」主演男優賞を受賞したユ・アイン、ベンを米国の人気ドラマ『ウォーキング・デッド』で知られるスティーヴン・ユアンが演じる。カンヌで脚本賞を受賞した『ポエトリー アグネスの詩』(10年)以来のイ・チャンドンの新作だが、原作の村上ワールドを引きずることなく、現代の韓国を反映した力強い作品に変換しているあたりはさすが。
製作国/韓国 監督/イ・チャンドン 出演/ユ・アイン、スティーヴン・ユアン
2019年日本公開予定
100%ラブストーリーで初カンヌ。日本映画界、期待の大型新人
 素人の4人の女性を起用し、普通の女性のリアルな人生に迫る、総時間5時間17分の実験的映画『ハッピーアワー』(2015年)が、ロカルノ国際映画祭などで高評価を得て注目を浴びた濱口竜介。初の商業長編作品『寝ても覚めても』では、いきなりカンヌのコンペに選出されるという快挙を成し遂げた。大阪に住む朝子は、麦と知り合い、付き合い始めるが、ある日、麦は突然、失踪する。2年後、運命の恋人を失った傷心から、東京で新しい生活を送っている朝子は、ある日、麦にそっくりの亮平と出会う。戸惑いながらも、互いに惹かれ合うようになる二人。だが朝子は、麦とそっくりだから亮平を愛するのか、自分でも確信がもてない。自分の心をもてあますかのような朝子の“揺れ”に、観客も翻弄される。
 素直なのか悪女なのか、つかみどころのないヒロインには、唐田えりかが抜擢。東出昌大が麦と亮介の一人二役を演じている。野間文芸新人賞を受賞した柴崎友香の同名の小説の映画化。
製作国/日本 監督/濱口竜介 出演/東出昌大、唐田えりか
9月1日(土)、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
© 2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS
人種差別問題にもの申す、社会派の巨匠が描く驚愕の実話
 1979年、コロラド州の警察に勤務するアフリカ系アメリカ人の刑事、ロン・ストールワースが、白人至上主義の団体KKKに身元を隠して潜入捜査した回顧録の映画化。電話では黒人アクセントを封印し、人種差別主義者の白人的な話し方でなりすますが、会合などには仲間である白人刑事フィリップ・ジマーマンが出席した。人種差別問題が核にはあるが、ストールワースとフィリップをはじめとする白人警官とのバディ感も強調されている。
『マルコムX』(1992年)などで知られる社会派のスパイク・リーは硬派なイメージがあるが、肩の力が抜けた傑作となった。低予算映画『ゲット・アウト』で大ブレイクし、今年のアカデミー賞で脚本賞を受賞したジョーダン・ピールが製作に関わっているが、彼の影響も大きかったのかもしれない。主演は名優デンゼル・ワシントンの息子であるジョン・デヴィッド・ワシントンだが、コメディアンとしてのセンスが抜群で、今後の活躍も期待できそうだ。
製作国/アメリカ 監督/スパイク・リー 出演/ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライヴァー
日本公開未定
© David Lee / Focus Features
『イーダ』の監督の新作は破滅的なラブストーリー
 1948年のポーランド、戦後の共産主義政権下で民族音楽舞踊団が結成された。演出家の男と新人歌手の女は、オーディションで運命的に出会う。冷戦下で出会った男女の10年にわたるラブストーリーを、美しいモノクロ映像で描く。別れてはまたよりを戻し、また別れ、別の相手と結婚し、それでも求め合ってしまう破滅的なカップルは、どこかノスタルジックでもある。前作『イーダ』でもやはり1960年代のポーランドを舞台とし、自らの出生の秘密をたどる修道女の姿を描き、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したポーランドの秀英パヴェウ・パヴリコフスキ。今回も、母国の歴史に翻弄される男と女の姿を、切なくも美しくスクリーンに焼き付けた。
 フォークロア、フレンチジャズ、ロックなど、時代の変遷、主人公の環境などによって移り変わっていく音楽が物語に深みを与えている。ヒロインを演じたヨアンナ・クーリグには、ハリウッド女優にはない強さと湿度がある。
製作国/ポーランド、イギリス、フランス 監督/パヴェウ・パヴリコフスキ 出演/ヨアンナ・クーリグ、アガタ・クレシャ
2019年以降日本公開予定

Text: Atsuko Tatsuta Editor:Kaori Shimura