この6月に3作目の小説『幸せな結婚』を上梓した、フリーアナウンサーの小島慶子さん。夫が仕事を辞め、自身が一家の大黒柱となった経験から紡がれたその物語では、ある二組の夫婦を通じて「幸せな結婚とは?」を問うと同時に、女性だけでなく男性さえも囚われ、苦しめているものの正体を浮き彫りにしていきます。さてそれは何なのか? 小島さんがたどり着いた解決策とは?

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仕事を辞めた夫に投げつけた、とんでもなく残酷な言葉

──小説『幸せな結婚』を書いたきっかけを教えてください。

 いろいろあります。さまざまな形の夫婦がいる今の時代ですが、「あそことウチとどっちが幸せ?」と考え始めて、思い悩んでいる人も多いんですよね。そういう人たちに向けて、幸せの形はひとつじゃないという話を書きたかったのがひとつ。

 それから、結婚におけるしんどさ――男らしさ女らしさ、夫らしさ妻らしさのしんどさって、男女ともに感じていることなのに、ともに分かち合えないのはなぜか。そのあたりを書いてみたいな、というのがひとつ。

──主人公の一人、仕事をバリバリこなす人気スタイリストの美紅(みく)は、小島さんが投影されたキャラクターでしょうか。小島さんのご家庭と同様に、彼女の夫・浩介は会社を辞め、主夫として家事と子育てをしていますよね。

 そのとおりです。一番のきっかけは、夫が仕事を辞めるという想定外のことが起き、とんでもなくひどい気持ちになったことかもしれません。自分はもっとまともな人間だと思っていたけれど、働いていない男性に対してこんな残酷なこと思ってしまうんだなと、自分でもびっくりしました。

『幸せな結婚』
スタイリストとして成功する妻を横目に、育児に追われる主夫の浩介。家事も育児も手伝わないラジオDJの夫に、いらだちを募らせる恵。渇いた心を持て余す二人は、ある日、公園で知り合う。パートナーには言えぬ想いを抱えて都会を生きる二組の夫婦が直面する、男と女の虚実とは――? インモラルで赤裸々な家族小説。¥1,600(新潮社)
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──「家庭に無関心な夫」と「家庭に閉じ込められる妻」の構図が、美紅と浩介の夫婦においては性別を反転させて展開するのがすごく面白くて。立場が変わるだけで、男性も女性も同じことを言うんだなと。

 でもそう言いながらも、浩介には「母性神話」の強固な刷り込みがあるんです。娘は可愛いし家事もできる、刷り込みさえなければもっと楽に生きられるし、美紅に対しても大らかでいられる。なのに、いつもそこに回帰して被害者意識を持ってしまうんですよね。

 一方の美紅も「女に母性を押し付けないで。私は父親のように好きなことだけして生きる」と思いながら、浩介に「働かなくても、家を守ってくれればいい」とは言い切れない。自分の父親くらい経済力のある男と結婚したかったという気持ちがどこかにあり、稼ぎのない浩介を下に見てしまうんです。

──どこかで、古くからあるジェンダー(社会が定義する性別の役割)観に縛られているんですね。

 私も身に覚えがあることです(笑)。今はだいぶ自由になりましたが、ずいぶん長い間「働いている自分は母親失格では?」という気持ちがありましたし、夫の退職もすぐに受け入れられず、「無職の夫なんてカッコ悪い」と思っていましたから。