DV夫に耐えかねて姿を消した妹、緑(みどり)を追って、「奇妙な町」にたどり着いた紅子。指示に従って「ある作業」さえすれば、衣食住が保証されるというその町には、どこからともなく若者たちが連れてこられ、互いを「フェロー」と呼び合い楽しく暮らしているが、町から二度と離れることはできない――。

9月公開の『人数の町』が描くのは、「人間」が「人数」としてしか存在しない「奇妙な町」を描いたディストピアムービー。観客と同じ目線で町を体験する紅子を演じるのは、石橋静河さん。町がシニカルに提示する「自由であること」「生きること」「数値化された人間」は、SNS社会の弊害が表面化し、コロナ禍の今、よりリアルな世界として胸に迫ったという。

二度と出られない「奇妙な町」の中にある、「美しい人生」

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――この作品に出演することになったきっかけは何でしたか?

 いつも「面白そうだな」「ワクワクするな」という映画に出たいと思っていて、今回は内容を前もって知った上で監督に直接お話を伺い、「こういう世界が本当にあったら怖いな」「見たことがない作品になるな」と思い、やってみたいなと思いました。

――監督とはどんな話をしたんですか?

 事前に、この映画に関する思いや、映像化したイメージなどが書かれた資料を頂いていたんですが、それがすごく印象的だったんですよね。監督自身が「わかりやすい映画」にしようと思っていない、その感性にひかれました。私自身も明確な結論を出したり、きっちり説明するような作品より、想像する余地があるもののほうが面白いと思うので。

――最近の日本映画ではあまり見ない、どこかシュールさもある映画ですよね。

 笑えるシーンもたくさんありますよね。私が面白かったのは、町で暮らす妹、緑の部屋でのパーティーのシーン。紅子が部屋に入るとすごい格好をした人がたくさんいて、撮影時は怖いくらいだったんです。みなさん個性豊かで「本当にそういう人」みたいに見える役者さんばっかりなので、その中に巻き込まれて悪い夢を見ているような感じで……。でも昨日あらためて作品を見てみたら、あの場面がすごくおかしくて。

――名前を剥奪された住人たちが、互いに「ハーイ、フェロー」と呼び合う挨拶も独特でしたね。

「ハーイ、フェロー」の後は、必ず相手を褒めるのが町の決まりなんですが、あの挨拶はちょっといいですよね。現場ではヘアメイクさんとかと「ハーイ、フェロー。今日は**ね」と言い合うのがはやりました。実際すごくシュールでバカバカしいセリフや、やり取りもあるんですけど、でも見ているうち、「え?」「あれ?」っていう感じになってくる映画なんです。

―― このコロナ禍の中で見ると、また一段と感じるものがありますよね。

 実は撮影したのは去年の5月でした。昨日久しぶりに作品を見返したら、以前とは全く違う見え方でしたし、こういう状況下でリアルさが増したように感じます。