理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

土壌をその歴史から正しく知ることが、よいブドウづくりの始まり

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印象的なドメーヌのエントランスの壁。

 みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第23回の訪問は、シャンパーニュ地方のランスから北西に車で20分ほど、メルフィ(Merfy)村に位置する「シャルトーニュ・タイエ」(Chartogne-Taillet)です。RM(=レコルタン・マニピュラン。自社でブドウ栽培から醸造、瓶詰めまでを行うシャンパーニュメゾン)の最高峰の造り手と名高いドメーヌ・ジャック・セロスのアンセルム氏の一番弟子であり、世界中のシャンパーニュラヴァーの注目を集める、現当主のアレクサンドル・シャルトーニュさんにお話を伺いました。

明日香:こんにちは! はじめまして。今日はよろしくお願いします。

アレクサンドル:明日香さん、ようこそいらっしゃいました。さっそくですが、私のシャンパーニュを飲んでみましょうか!

明日香:(笑)。ぜひ!と言いたいところですが、まずはドメーヌの歴史について教えてください。アレクサンドルさんのお話をいろいろ伺ってから味わったほうが、より美味しく感じられそうです(笑)。

アレクサンドル:おや、そうですか? ジョークではなかったのに(笑)。

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アレクサンドルさんの祖父母の時代の、メルフィの通りでの家族写真。

アレクサンドル:私の一族は15世紀から何世代にもわたって、ここ、メルフィ村にいます。1683年にブドウ栽培家として創業し、シャンパーニュ造りは1960年代に祖父母が開始しました。「シャルトーニュ・タイエ」というドメーヌ名は、私の祖母と祖父の名前が由来なんです。

明日香:15世紀からとは、とても長い歴史ですね。アレクサンドルさんは、いつドメーヌを継がれたのでしょうか?

アレクサンドル:2006年、ちょうど22歳のときです。

明日香:かなり若くに継がれましたね。アレクサンドルさんは幼いころから、将来はご両親の仕事を継ぐと考えていらしたんでしょうか。

アレクサンドル:いいえ! 正直なところ、まったく考えていませんでしたね。ブドウはもちろん、シャンパーニュ造りはすべて“生きている”ものなので、両親が自然を相手にとても気を遣い、ときにストレスを感じながらドメーヌの仕事に取り組む様子を長く見てきましたし。もちろん、10代のころから両親の手伝いで畑仕事は一緒にしていましたが、ただ、その当時から、両親、特に母は私が家業を継ぐことに反対していました。

明日香:そうなんですね。そこから、現在に至るまでには、どんなきっかけがあったのでしょうか。

アレクサンドル:私はブドウ栽培やワイン醸造とは関係のない高校を卒業しましたが、個人的にはワインやシャンパーニュが好きなので、自分で畑仕事やワイン醸造をしなくても、ワインに関わる仕事をしたいと思っていました。

明日香:なるほど。実際に、どんなお仕事をされたのですか。

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〈左〉サロンに飾ってあるメルフィ村の風景画。〈右〉広いドメーヌの敷地内にはいくつかの建物が点在する。この写真の右手にカーヴがある。