理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

離れた場所から自分の土地を見つめ直したから、今の私のアプローチがある

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〈左〉2019年のシャルドネをテイスティング。まるでブルゴーニュの一級畑のワインのように素晴らしい出来。〈右〉カーヴには整然と樽が並べられている。中央の右手にまた隣のカーヴがある。

 みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第23回の訪問は、シャンパーニュ地方のランスから北西に車で20分ほど、メルフィ(Merfy)村に位置する「シャルトーニュ・タイエ」(Chartogne-Taillet)です。後半では、現当主のアレクサンドル・シャルトーニュさんに、かつてアンセルム・セロスさんに弟子入りした経緯などのお話を伺い、さらにテイスティングをさせていただきました。

明日香:(地下のカーヴにて)畑はかなり暑かったですが、ここは涼しいですね。こちらのカーヴ、きれいに整理整頓されていて、ライティングも素敵! しかもかなり大きいですよね?

アレクサンドル:ありがとうございます! 実は、ここメルフィ村は第一次世界大戦中に爆撃によって完全に破壊されてしまいました。この地下セラーは、私の祖父母が再建したものですが、私が整備し、さらに新しい地下室を増築し拡張しました。工事は6カ月かかり、昨年完成しました。友人の力を借りて、私たちだけで造ったんですよ。建材として使った石は、古い家で使われていたものです。この石材を使うために家を買ったんです。

明日香:えっ? 本当に? 冗談ですよね?

アレクサンドル:いえ、本当の話です。セラーを作るために、家を一軒買ったんですよ(笑)。私はこの地の自然や環境をとても大切に、尊重したいと思っています。地元の石を使ったセラーで仕事を行うことで、私のシャンパーニュにこの土地のエネルギーが供給されるのだと確信しています!

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カーヴが3列になっているのがよくわかる。

明日香:なるほど! あらゆる場面でこの土地のエネルギーを得たシャンパーニュ、とてもステキですね! アレクサンドルさんのシャンパーニュ造りに対する哲学が確立されていくきっかけは、何だったのでしょうか。

アレクサンドル:私の師匠であるアンセルム・セロスさんとの出会いがきっかけです。ドメーヌ・ジャック・セロスで修業をする機会を得たのですが、その間、アンセルムさんとは、私のドメーヌをいかにより価値のあるものにしていくか、私のアプローチがメルフィ村にある我が家のブドウ畑に本当に合っているのか、といった話について、とても多くの時間をかけて議論しました。彼が常に言っていたのは、私がどこの畑にいようと、その土壌の表層や深層を知り、正しく理解することが必要だ、ということでした。その土壌のアイデンティティをきちんと表現できるシャンパーニュを造らなければならない、というアドバイスは、私にとってとても大事な哲学で、さまざまなことに取り組むうえでの原点となっています。

明日香:アンセルム・セロスさん! 現在のシャンパーニュを語るうえでは欠かせない大御所ですよね。私が尊敬する造り手さんの一人です。どうやって彼のもとで修業することができたんですか?

アレクサンドル:当時、シャンパーニュに電話が開通していた、という幸運に恵まれたんですよ(笑)。

明日香:あはは! きっかけは一本の電話だった、ということですね。アンセルムさんのもとで学んで、どうでしたか。