理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

生粋のシャンパーニュっ子が、古代のジョージアワイン造りを実験する理由

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生命力あふれる深い緑が美しい夏のシャンパーニュの畑。

 みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第14回は、シャンパーニュ地方の中心に位置する街であるエペルネからマルヌ河沿いに西へ約14kmほど、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区のウイィ村(Oeuilly)に位置する「シャンパーニュ・タルラン」を訪問しました。

 現当主となるブノワ・タルランさんは、なんと12代目! 「物心がついたときからシャンパーニュを造ることしか考えていなかった」というくらい、生粋のシャンパーニュっ子であるブノワさんにお話を伺いました。

明日香:(畑にて)葉が青々として、やはり夏の畑は元気ですね! また、この見晴らしが素晴らしいですね。さっそくですが、タルランの畑について教えてください。

ブノワ:タルランは、このウイィ村の畑を中心にいくつかの村に合計14haの畑を所有しています。畑は31のリューディー(区画)に分けており、さらにそれらを102のパーセル(小区画)に分けています。ブドウは、ピノ・ノワールが50%、ムニエが29%、シャルドネが15%、残り6%が古代品種、という割合で栽培しています。

明日香:古代品種を6%も栽培されているんですね。また、パーセルを102に分けているなんて、土壌と品種の違い、状況を詳細に把握して管理されていらっしゃるんですね。いま私たちがいるのは、どのキュヴェの畑ですか?

ブノワ:この畑は「レ・サブル(Les Sables)」という名のリューディーで、ここで採れたブドウは「ラ・ヴィーニュ・ダンタン(La Vigne d’Antan)」というキュベになります。ここの特徴は砂質土壌で、接木(つぎき)されていないシャルドネを植えています。

明日香:それはつまり、ここの土壌はフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)に侵されていないということでしょうか。

ブノワ:そのとおりです。

明日香:すごい! フィロキセラフリーのブドウ樹の区画があるなんて、かなり珍しいですね! 畑の地勢はどうですか?

ブノワ:北東に面していて、特徴としては、朝の日照が非常に多いこと。そして、この丘の形がとてもよいので、風がよく通ることですね。

明日香:風通しがいいと、ブドウが病害に侵されにくく、健康に育つんですよね。この畑のブドウ樹は、葉がほかの畑よりも高い位置まで伸びている気がします。やはり、理由があるのでしょうか。

ブノワさんの高祖父、8代目のルイさんの時代の様子がわかる当時の写真。
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ブノワ:よくお気づきですね。そのとおりです。新しい葉を成長させることで、そこからブドウ樹全体にエネルギーが行き渡って、より成熟度の高い、元気なブドウを育てることができるようになるので、葉を高い位置まで伸ばしています。

明日香:確かに、力強さを感じさせる葉っぱです!

ブノワ:そうでしょう。実際、これらの葉っぱは、よりよいブドウのために必要な作業に関するサインを出してくれるんです。

明日香:どんなサインなんですか?

ブノワ:時期になると葉の端っこに「古い葉を切り落とすタイミングだよ」と、私たちにわかるサインが出るんです(笑)。このブドウ畑は北東向きですが、来週は、そのなかでも東向きのブドウの葉を切り取って、日光の当たり方をよりよくすることで、ブドウの急成長を促す予定です。また、大きな葉を切り落として風通しをよくし、ブドウを乾かします。

明日香:まさに、ブドウ樹とのコミュニケーションですね。

ブノワ:そうですね。毎日、畑でブドウと対話しながら作業をしています。またいいブドウが育つには、土をよく耕し、根を地中深くまで伸ばすこともとても重要です。

明日香:やはり、毎日の畑での丁寧な作業がシャンパーニュの美味しい味わいにダイレクトにつながるんですね。