理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の“今”にフォーカス。

あるときは醸造家、またあるときは空の上の仕事人!?

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ドメーヌ・ルプルー・プネの入り口に掲げてある看板。シャンパーニュらしくピュピトル(澱下げ台)を利用しているところがユニーク。目の前にはブドウ畑が広がっている。

 ――みなさん、こんにちは! 「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第2回をお送りします。今回は、シャンパーニュ地方北部のモンターニュ・ド・ランス地区に位置する「ルプルー・プネ」というドメーヌを訪ねました。
 この地区で主に栽培されるのは黒ブドウのピノ・ノワールで、ルプルー・プネはその中でも洗練されたピノ・ノワールを生み出すといわれるヴェルジ村を拠点にしています。ヴェルジ村は、シャンパーニュの中心都市であるランスから車でわずか20分程度です。
 ルプルー・プネのブドウ栽培は、1660年に始まり、その歴史は約360年! 8代目となる現当主のフランソワ・バルボサさんは、7代目のお嬢さんとの結婚を機にシャンパーニュ造りを始めたという異色の経歴です。今回はそのフランソワさんにインタビューしてきました。

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最新設備の整った醸造所にて。すみずみまできれいに掃除が行き届いており、かなり清潔に保たれている。フランソワさんによると、これは美しいシャンパーニュを造るために非常に重要なプロセス、とのこと。

明日香:ルプルー・プネの歴史を教えてください。

フランソワ:ルプルー・プネは1660年にブドウ栽培農家としてスタートしました。初代当主であるバリ・プネが、ヴェルジ村にブドウ畑を買ったことがそのはじまりです。
 それからは代々、ブドウをシャンパーニュメゾン(大手シャンパーニュ生産会社)に売って生計を立てていたのですが、創業から約270年後、ちょうど1929年の世界恐慌のときに、6代目当主のルイ・ジルベール・プネがドメーヌを立ち上げました。彼には、自分の育てたブドウで自分のシャンパーニュを造りたいという強い思いがあったのです。その当時に掘った地下のセラーは、白亜質の地層約18mもの深さにあり、もちろん今もそのセラーで、ワインを最高の状態に保ちつつ寝かせています。