理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の“今”にフォーカス。

造られた場所で、造った人と飲むシャンパーニュはまた格別

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フランソワさんのブドウ畑にて。今年はこれまで素晴らしい天候で、ブドウがとてもいい状態で育っているとのこと。丘の上にはヴェルズネイ村のシンボルでもある風車が見える。

 ――ドメーヌ・ルプルー・プネの8代目当主、フランソワ・バルボサさん。前編では、シャンパーニュの造り手としては異色なその経歴を話してくれました。後編では、彼の愛車であるハーレーダビッドソンに乗せてもらい、畑に向かいました!

明日香:いつもハーレーでブドウ畑に行ってるんですか?

フランソワ:違いますよ(笑)。普段、畑で作業するときは道具もいっぱいあるからトラクターで行くけど、畑の様子だけを見に行くときは、ハーレーに乗って行くことも多いかな。畑の香りや風を感じられて、とても気持ちがいいからね。

明日香:やっぱり、こんな造り手さん見たことない!(笑) ところで、ルプルー・プネの畑は、ヴェルジ村以外にもあるんですか?

フランソワ:ヴェルジ村とヴェルズネイ村を中心に、全部で8ヘクタールあります。どちらの村も格付け100%のグラン・クリュの畑です。
 この土を見るとわかるように、石灰質土壌でミネラル豊富。そして、ここの畑は北向きで、だからこそ酸味がしっかり入ったブドウが育ちます。

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今回テイスティングした、ルプルー・プネのプレスティージュ・シャンパーニュ2本。左は「ビュル・デトワール」。星の泡という名前のとおり、キラキラと黄金色に輝くシャンパーニュ。ゴールドのエチケットもポップで華やか。右は2009年のミレジメ。堂々と気品のある佇まい。

フランソワ:さて、ドメーヌのガーデンに着きました。それじゃ、そろそろテイスティングをしましょうか?
 まず1本目は、ブラン・ド・ブラン、つまりシャルドネ100%で造られるキュヴェから飲んでみましょう。「ビュル・デトワール」という名前です。

明日香:ビュルが「泡」で、エトワールが「星」という意味なので、「星の泡」という意味のシャンパーニュですね。素敵な名前!

フランソワ:そう、素敵でしょう(笑)。僕が造っているシャンパーニュのなかで唯一、白ブドウのみから造られるキュヴェです。その名にふさわしく、泡がキラキラと星のように輝いて見えるんです。

明日香:本来、この地域はどちらかというとピノ・ノワールに適した土壌といわれていて、ピノの生産のほうが多いと思うんですが、どうしてシャルドネのみのシャンパーニュを造ろうと思ったんですか?

フランソワ:このシャンパーニュに使うのは、先ほど一緒に行ったグラン・クリュであるヴェルジ村とヴェルズネイ村のブドウなんですが、実際、僕が所有している畑は3分の2がピノ・ノワールで3分の1がシャルドネ。なので、基本的にはピノ主体でシャルドネをブレンドして造っているのですが、2009年のシャルドネの出来が非常によくて、ピノと混ぜずにシャンパーニュにしてみたらどうなるか試してみたくなったんです。

明日香:なるほど、そういうきっかけだったんですね。飲んでみると、泡が緻密で細かいのに非常に力強いですね! 溶け込んでいるのに持続性があって、元気で活発な印象です。