オムニバス映画のように、それぞれの展示室で異なるアプローチの趣向を凝らしていながら、すべての章を通り抜けたあとには、ひとつのフィロソフィーに貫かれた物語世界を味わい尽くした読後感に満たされる。単調になりがちな写真というメディアとそのプレゼンテーションの可能性をふくよかに拡げる展示といえるだろう。

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海を直接的に表現せず、青の色彩で浮かび上がらせる第5章の部屋。© CHANEL NEXUS HALL

 また、ヨガナンタンの関心は個々の章立てに用いる色にも寄せられている。7つの章それぞれを象徴する色があるが、例えば、さまざまな動物が登場する第5章では、物語の舞台である海を見せずに、人々の暮らしから探し出した青の色彩で海を表現した。

「絵画と写真の関係に強い関心がある」という彼は、パブロ・ピカソの画業における「青の時代」や「薔薇色の時代」のように、「特定の色に対する執着を通して写真を探求するエネルギーを得ている」と語る。

 本作において最もユニークな、モノクロ写真に手彩色するというアナログな手法は、ノスタルジーを喚起するとともに、写真表現にひと刺しの刺繍のようなフィジカルな魅力をもたらした。それはノンフィクションの強度とはむしろ対極にある、想像界の視覚的イメージならではの“わかりみの深さ”ともいえる。修復された太古の遺物や古典絵画に生命力が甦るように、「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」の作品世界は、色彩という古代と現代の懸け橋によってリアリティの躍動を手に入れたのだ。

ヴァサンタ ヨガナンタン 写真展 「二つの魂の神話」
~9月29日(日) 12:00~19:30 無休
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)
入場料:無料

Text:Chie Sumiyoshi Editor:Kaori Shimura

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