出演映画『西北西』が公開中のサヘル・ローズさん。いまやニュースやバラエティで大活躍の彼女は、幼少期に家族を失い、児童養護施設で過ごしたという異色の経歴の持ち主だ。養母とともに8歳で来日し、その後もさまざまな苦労があったのだという。そうした自身の経験がモチベーションとなり、近年では社会支援活動にも積極的に取り組み、注目を集めている。
宗教、国籍、セクシャリティの異なる3人の女性を描く『西北西』では、敬虔なイスラム教徒のイラン人留学生ナイマを演じているサヘルさん。映画の中で描かれる、現代日本の縮図のような価値観のぶつかり合いは、日本に暮らす外国人としての彼女の目には、どのように映ったのだろうか。

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イスラム教徒と同性愛者、異なる価値観の出会い

──出演最新作『西北西』で、サヘルさんの心に一番刺さったものは何でしょう?

 私が演じたナイマのキャラクターです。イランからの留学生であるナイマは、大学を卒業した後は日本で生活したいと思っているのですが、滞在許可がなかなか下りません。日本に来た年齢こそ違いますが、「これからどうしよう」と悩み葛藤する姿に、この人は自分と遠い存在ではない、同じ皮膚感覚を共有できる人物だなと感じました。苦労したのは、セリフをカタコトの日本語で話さなければいけなかったこと。私は8歳から日本にいるので、それが一番難しかったかも(笑)。

──イスラム教徒のナイマ、同性愛者のケイ、バイセクシャルのアイ、それぞれに迷いや不安を抱え、異なる価値観を持つ女性たちの出会いを描いていきます。ナイマを演じるうえで大事な部分はどんなものでしたか?

 ナイマが信じる神や宗教への思いです。彼女は言ってみれば「籠の中の鳥」のようなものかもしれません。同じ世界しか知らず、そこに縛られていて、外の世界に飛び出すのを恐れているんですね。だからケイに「ナイマはいいよね、信じられるものがあって」と言われる場面ではすごく複雑な気持ちになりました。決して羨ましがられるような状況ではありませんから。

 ナイマにとってのケイとアイは、本当の意味での「別の価値観」を教える存在だと思います。タイトルの「西北西」は東京から見たメッカの方向なのですが、世界にはそれ以外の方向もある。それを経験することで人間は成長していくものだし、そうした成長はいくつになってもあるものですよね。

できるだけ「素」の演技を求めた監督の演出法により、ケイやアイを誰が演じているのかを知らされていなかったサヘルさん。よって、それぞれとの出会いのシーンは、本当に「初対面」だったという。
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──映画冒頭の入国管理局の場面は、ナイマの不安がひしひしと伝わってきました。こうした役づくりには、ご自身の経験が反映されているのでしょうか?

 私の場合は幼い年齢での来日だったので、当時の不安は母がすべて引き受けてくれていたのだと思います。そうした苦労を母の口から聞いたことはありませんが、18歳になり、在留許可の更新のために入国管理局に行ったときに、はじめてわかりました。誰も頼る人のいない日本で、こんな思いで入管に行き、長い時間、ビザが下りるかどうかを「どうなるんだろう」と思いながら待ち続ける──まさに映画の冒頭の場面のような不安がそこにあることを味わいました。

──入管でビザが下りず、そのまま出国命令というようなこともあるのでしょうか?

 場合によっては、あるのかもしれません。在留ビザに関しても、その場で「ノー」と言われるケースもあるでしょうし、後日可否が伝えられることもあります。1週間後と言われれば、その1週間は本当に不安で、拷問のように感じられます。弁護士を雇うお金がある人もそうはいませんから、出国命令が出てしまえば、多くの人がその決定に従うしかありません。