明治や大正、昭和初期に建てられた建造物には、現代の建物とは異なる魅力がある。DJ、モデル、ファッションデザイナーとして多彩な顔を持つMademoiselle YULIA(マドモアゼル・ユリア)が、そんな近代建築をナビゲート。今回は、東京都庭園美術館を訪れた。

MADEMOISELLE YULIA
東京生まれ。DJやシンガー、モデル、ブランド“Growing Pains”のデザイナーとして活躍。国内外のコレクションのフロントロウを飾る、ファッションアイコンとしての顔も持つ。また、今年4月から大学で日本の伝統文化について学んでいる。大正時代や歌舞伎、着物などに造詣が深い。http://yulia.tokyo/yulia/

アール・デコ全盛のフランス装飾技術が随所に

 1983年開館の東京都庭園美術館は、建築好きが数多く訪れる場所でもある。その魅力はなんといっても、1910年代から1930年代にかけてヨーロッパを中心に発展したアール・デコ様式の美しい建物。そもそもは、戦前パリに長期滞在されていた朝香宮鳩彦王と允子妃ご夫妻が、当時のフランスで最新の装飾美術を取り入れて完成させた邸宅。1933年から皇籍離脱をされる1947年まで実際に暮らしていた。フランス人芸術家アンリ・ラパンや、ガラス工芸家ルネ・ラリックが協力した建物は、今なお優美さを湛えている。

東京都庭園美術館では本館にあたる、旧朝香宮邸の正面玄関にて。
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 正面玄関には、アール・ヌーヴォー時代から活躍し、アール・デコを代表するルネ・ラリックが朝香宮邸のために制作したガラスの扉が飾られている。翼を広げる女性を象った神秘的なレリーフだが、薄いガラスのため、殿下の次男が勢いよく閉めた際に割ってしまったという逸話も。そのため、割れてしまったガラスの一部を差し替えているという。そんな微笑ましいエピソードを含め、ガラスレリーフ扉はこの建物のハイライトのひとつだ。

 続く大広間は、40個の照明が煌々と照らす天井と、重厚なウォールナット材を使用した壁面のコントラストが象徴的。丸、四角、直線、曲線、そして連続性──1925年に開催されたパリ万博でピークに達したアール・デコ様式を凝縮したディテールに圧倒される。壁に入れた切り込みも、機能性はないが遊びが感じられる仕掛けに。

 大広間から大客室へと繋ぐ次室(つぎのま)では、白磁の「香水塔」が必見。アンリ・ラパンが1932年にデザインした香水塔は、もともと噴水器だったが、朝香宮邸時代に香水を施していたことに由来し、現在の呼び名となった。

曲線と直線、反復のモチーフが見事な大広間(注:『ブラジル先住民の椅子』展期間中に撮影したもので、現在は終了)。
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