南宋を代表する書家、張即之の力強い禅院額字

 円爾は日本に戻る際、文化的価値の高い典籍など1000点余りを持ち帰りました。その中には南宋代に流行していた張即之(ちょうそくし)のものとされる額字や金剛経(こんごうきょう)なども含まれています。
 中国の書は、二王(王羲之:おうぎし、王献之:おうけんしの父子)の系統や初唐の楷書を正統としてきましたが、即之はこうした正統派の書を否定し、古法にとらわれない書風のため、当時は賛否両論だったようです。

楷書でありながら、静と動を漲らせる運筆が奥深い。張即之の筆とされる東福寺の「方丈」の額字(国宝)。この額字は、相国寺(京都)など、全国の禅寺で手本となっている。(画像提供:京都国立博物館)

 とはいえ、筆先や筆の腹を使い分ける柔らかな筆致には確かな技術がみられ、簡素で力強い造形の中に、一本通った気品が感じられます。
 南宋の官僚でもともと書に長けていた上に、無準をはじめとした禅師たちとの交流による禅への造詣が、その書風に影響を与えたのではないかと思います。

仏殿(法堂)。中には本尊の釈迦如来立像と脇侍の阿難・迦葉尊者の立像が祀られ、張即之 筆の「普回向(ふえこう)」の額も左右に掲げられている。

 禅宗寺院の額字は、一般の看板の字などとは意味合いが違います。その建物にとって精神的な象徴としての重要性をもっているからです。精神鍛錬から導かれた禅のパワーが額字を通して放たれ、それは時代を超えて、見る者に心の解放と気づきを与えてくれます。