映画の面白さの半分は、物語の力である。魅力的な小説は次々と映画化される時代だが、反対に、素晴らしい映画を観ると、その原作が読みたくなる。原作と映画の持ち味を比較し楽しむのも一興。

チューリップ球根が高騰。世界初の投機バブルが背景

『チューリップ熱』
デボラ・モガー著 立石光子訳
白水社刊 ¥2,200

 バブル経済を語るときにしばしば引き合いに出されるのが、チューリップ・バブルである。

 17世紀のオランダは、長きにわたる戦争の末に独立し、貿易で潤うヨーロッパでも有数の経済大国になっていた。オスマン帝国から入ってきたチューリップの球根が投機の対象となり、価格が高騰。一時は1個の球根が、一般的な職人の年収の10倍にもなったという。それが急落したことによって、多くの人が破産に追い込まれた。

 このチューリップ・バブルは、世界で最初の投機バブルともいわれている。英国の作家、デボラ・モガーによるベストセラー小説『チューリップ熱』は、そんな黄金期のアムステルダムが舞台となっている。

 裕福な初老の商人コルネリス・サンツフォールトの後妻となった若いソフィアは、夫婦の幸せを確固たるものとするために子どもを授かろうとするが、なかなか恵まれない。そんな折、夫のコルネリスは、二人の肖像画を描いてもらうことを提案する。当時の中産階級の間では、肖像画を描いてもらうことが流行していたのだ。彼らの画家となったのが、若く実力のある画家ヤン・ファン・ロースだった。肖像画を描くうちに、ソフィアとヤンは恋に落ち、密会を重ねるようになる。ともに生きることを夢見るようになった二人は、サンツフォールト家のメイド、アンナの望まない妊娠を利用し、ある計画を思いつく。

 それは、アンナではなくソフィアが妊娠、アンナが出産すると、ソフィアは出産により死亡したと見せかけ、ヤンと二人で国外に逃避行するというものだった。アンナをはじめ、周囲の人たちの協力を得て、計画は綿密に練られた。