技術からアート史にまで精通した、カルティエの職人たち

 プルドン氏によれば、カルティエでは職人たちの意識や知識の向上やコミュニケーションにも、重点を置いている。「職人たちは皆お互いをよく知っていて、コミュニケーションもスムーズです。ここでは、サヴォアフェールが世代から世代へと伝えられます。“伝達”を果たすのは若年職人の訓練担当者、そして若者を抱える部門のチーフたち。しかしなんといっても彼らが伝えるのは、パッションです。ハイジュエリーではすべてのピースが異なりますから、パッションはとても大切です」。

 ジュエリー職人の仕事は多角的で、すべてのプロセスを含む。つまり、一人の職人が一つのピースを、セッティングや研磨など他のエキスパートの手に委ねる作業を除き、最初から最後までを手がけるのだ。 「こうして彼らは常に新しいことを学び、自分が手がけたピースの仕上がりを見ることで、忍耐力とパッションが持続するのです」と、プルドン氏の話は続く。

 また、最低3年の訓練、熟練とみなされるには約10年の経験を必要とする石留め職人については、常に特別な注意が払われている。「石留め職人の部屋をジュエリー職人のアトリエと分けているのは、集中力を高めるためです。ハイジュエリーではセンターピースに据えられた高価な石を扱うので、気が散る要素は極力排除した、静かな環境が大事です。また職人の日々の体調も考慮の対象となっています。例えば前日よく眠れなかった石留め職人は、その日は大切な作業に臨みません」。

 最後に氏は、カルティエのシグネチャーともいえるスタイルについても言及した。「ハイジュエリーではすべての規範がとても大事ですが、特にアート史に関する知識を深め、主題を理解しないといけません。例えばガーランド・スタイル、アールデコなどの様式について。クリエイターによるデザインを生かすには、そのスタイルを理解していることが、とても大切なのです」。

 このアトリエでNIkkeiLUXEが見聞きしたのは、サヴォアフェールから作業全般のオーガニゼーション、そして職人たちの意識向上や体調チェックまで、さまざまな側面。これらすべてが調和よく、円滑に進んでこそ、カルティエのデザイン画が極上のハイジュエリー・ピースとして完成するのだ。

2カ所に分かれた、空枠づくりのアトリエのうちの一つ。ここではチーフが、10数名のジュエリー職人を指揮。ラペ通りにはこのほか、石留め職人のアトリエ、研磨職人のアトリエがある。
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ジュエリー職人が、自身が作ったジュエリー本体に、石セッティング用の爪をバーナーで溶接中。針金を丸めたような土台は、ヘアピースのように見えることから“かつら”を意味するペリュックと呼ばれる。
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糸のこで空枠の細部のサイズや形を整える、ジュエリー職人。湾曲型のテーブルの中央から突出しているのは、シュヴィーユ・ドゥ・エタブリと呼ばれる、ジュエリーづくり特有の作業台。
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クロコダイルのブレスレットにセッティング用の穴を施したのは、ジュエリー職人。ここで穴のサイズを測定中なのは、石留め職人。この後、サイズに合わせてカッティング職人が石の形とサイズを調節する。
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写真右のリングを飾る予定のパンテールに石をはめ込む、石留め職人。このパンテールは実はブローチだが、リングに組み込まれると針は完璧に隠れる、精巧なつくり。この後、針の先端にも小さな石がセットされる。
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左の写真のパンテールには、大きなルベライトのカボションを。ここで石留め職人が手にしている、歯科の器具に似た電気仕掛けのツールが、先端を使い分けることでさまざまな作業を可能にする“ピエスアマン”。
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ネックレスはジュエリー職人により本体の形が出来上がったら、粘土に似たモデリング・ワックスを使って、この木型にのせて見る。デザイン・チームがボリューム感をチェックするための、いわばフィッティング。
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ガーランド様式のチョーカーは、センターを外して別のチェーンに繋げば、ペンダントに。全体がしなやかでつけ心地がいいか、センターの取り外しと付け替えは簡単で安全かを、ジュエリー職人が念入りにチェック。
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上記ネックレスの別使い用のチェーンを幾つかのパートに分けてワックスに固定し、ダイヤモンドをセッティング中の、石留め職人。写真の左手にはあらゆるサイズ、形の、タガネが並ぶ。
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Photos:Lowe H Seger Text:Minako Norimatsu Video:Chiara Santarelli Edit:Yuka Okada

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