18世紀から続くシャンパーニュメゾン「TAITTINGER(テタンジェ)」。ブランドの歴史は、オーナーであるテタンジェ家の歩みそのものである。その最前線で同社のメッセージを伝えるのが、アーティスティック・ディレクターとアンバサドリスを務めるヴィタリー・テタンジェさんだ。4代目当主の長女として、また4人の子を愛し育てる母として、家族の「伝統」と「革新」を支えてきたヴィタリーさんの言葉から、テタンジェの今を読み解く。

フルートグラスに象徴される、幼少時の想い出

 多くのシャンパーニュメゾンが巨大資本グループに取り込まれるなか、今なお家族経営を続けているテタンジェ。その起源は、前身となる1734年創設のメゾンを、1932年に初代当主ピエール・テタンジェ氏が購入したことに始まる。現在、社を率いるのは、4代目のピエール・エマニュエル・テタンジェ氏だ。ヴィタリーさんは、兄のクロヴィスさんとともに、2007年から経営に携わっている。だが、それは決して敷かれたレールの上を歩んだ結果ではなかったという。

「父はビジネスとプライベートをはっきり区別していたので、シャンパーニュやぶどう畑に囲まれて育ったわけではないんです。ただ、両親が頻繁にパーティを開いていたので、大人たちが飲み終えたあとのフルートグラスを、子ども心に綺麗だなと眺めていたのはよく覚えています」と、当時を思い出すようにして語るヴィタリーさん。その頃の夢は、アーティストになることだったという。実際、のちに彼女はリヨンのアートスクールを卒業し、イラストレーションやグラフィックデザインの現場で腕を磨いていた。

家族がいるからこそ、困難にも立ち向かえる

 転機が訪れたのは、2005年。メゾンが米系投資会社に買収されたことで、心が揺らいだ。翌2006年にピエール・エマニュエル氏が苦心して買い戻したものの、それまでの1年間は家族にとっても試練の時期だったという。「一族が長年育んできたメゾンを失うのは悲しかったし、何より苦しむ父を見ているのがつらかった。でも、その父が人生を賭して社を取り戻したのは、次の世代に引き継ぐためだと知ったとき、私の心は決まりました」とヴィタリーさん。2007年、大好きだったアーティストの仕事を諦め、「雇ってください」と直談判した。「とはいえ、私はシャンパーニュや経営については全くの素人。父に認めてもらうまでは大変だったんですよ」と笑う。そんな彼女も、今ではテタンジェの顔として欠かせない存在となっている。

テタンジェの「顔」として、広告ビジュアルにも登場しているヴィタリーさん。モノクローム写真が美しく、発表当初は「どこの女優?」と話題を集めた。

 ファミリービジネスを支える一方で、彼女自身も4人の子の母親である。「家族は私にとってすべて。彼らがいるからこそ、情熱をもって仕事に取り組める。もちろん、仕事と家庭のバランスは大切で、どちらに偏りすぎてもいけません。そのためにもスケジュールを綿密に組むことと、互いに信頼し合えるスタッフやパートナーをもつことが重要。幸い私には、仕事をバックアップしてくれる優秀なチームと、モチベーションの源となる家族がいます。テタンジェというファミリーで働くこともまた、私の喜びそのものであるんです」