理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

“ファム”の力で完成させたシャンパーニュ

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醸造最高責任者のサンドリーヌさんと。地下のカーヴにて。

 みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第15回の訪問先は、シャンパーニュ地方の街エペルネから車で南に25分、コート・デ・ブラン地区のプルミエ・クリュ、ヴェルテュ村に位置する「デュヴァル・ルロワ」です。

 後編ではセラーに移動。現当主のキャロルさん、醸造最高責任者であるサンドリーヌ・ロジェット=ジャルダンさんとのお話を交えながらのテイスティングです。

明日香:サンドリーヌさんは、現在「デュヴァル・ルロワ」の醸造最高責任者でいらっしゃいますが、もともとシャンパーニュご出身でいらっしゃるんでしょうか。

サンドリーヌ:はい。私はシャンパーニュ出身です。ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区の小さな村で生まれ育ち、その後、アヴィーズに移りました。シャンパーニュ造りに関しては、コート・デ・ブラン地区のいくつかの村で経験を積み、このメゾンに移ってきました。

明日香:サンドリーヌさんのご家族もみなさん、シャンパーニュに関係したお仕事をされているのですか?

サンドリーヌ:はい。父は別のメゾンで仕事をしています。私は、将来シャンパーニュ造りをやりたい、と比較的若いころから決めていたのですが、女性ということもあり、「造り手側ではなく、シャンパーニュの品質などの研究者がよいのでは」といった話をよくされましたね。ひと昔前まで、女性でカーヴの責任者なんて一人もおらず、すべて男性でしたから。

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〈左〉年間500万本以上を生産する「デュヴァル・ルロワ」のカーヴには、新樽、古樽が無数に並んでいる。 〈右〉サンドリーヌさんとテイスティング。ここはカーヴの一階で、後ろに見えるのは地下に設置されている巨大なステンレスタンク。

明日香:でも、「私はやるわよ!」と(笑)。

サンドリーヌ:もちろんです! 私はシャンパーニュを造る、と決めていたので、ランス大学卒業後は、シャンパーニュ造りの各段階で品質管理を行うためにいくつかの研究所で14年間勤務し、キャロルがこのメゾンの社長に就任した年からここで働いています。
 キャロルは最初から私を、品質管理の責任者に抜擢してくれました。それから、これまでにないほどシャンパーニュ造りに情熱を注ぎ込み、2005年からは醸造最高責任者を任されています。ほんとうに、ひと昔前までは信じられないことです。

明日香:サンドリーヌさんのシャンパーニュ造りに対する熱い思いと、キャロルさんの女性社長として新しい時代を築いていこうと意気込みが重なり合って、今の「デュヴァル・ルロワ」の味わいがあるわけですね。

サンドリーヌ:そうだと思います。では、明日香さん、テイスティングをしましょうか。 まず最初は「デュヴァル・ルロワ プレスティージュ エクストラ・ブリュット(Duval-Leroy Prestige Extra-Brut)」です。これは、シャルドネが65%、ピノ・ノワールが35%の割合で、プルミエ・クリュとグラン・クリュのブドウのみから造られています。ベースワインは2014年のものが半分で、残りはそれよりも古い数年分のリザーヴワインをアッサンブラージュしています。そのうち、樽で熟成されたワインの割合は2%です。澱とともに4年寝かせたのち、リリースしています。

明日香:樽を使って造るシャンパーニュはもちろんいくらでもありますが、 “2%だけ使う”というのは初めて聞きました。