ヴァネッサ・パラディが出演したフレグランス「ココ」の傑作CMをはじめ、シャネルとのコラボレーションでも知られるフランスの奇才、ジャン=ポール グード。11月28日(水)~12月25日(火)の間、銀座のイベントスペース「シャネル・ネクサス・ホール」にて、彼の展覧会が開催される。過去のコラボ作品や写真、ドローイングプリント、インスタレーションなど、グードの世界を余すところなく体験できる貴重な機会だ。
時代に先駆け、グラマラスな美を発見した稀代の“イメージメーカー”
フランス人の父とアメリカ人の母をもつジャン=ポール グードは、1960年代にアート・ディレクターとして活動を開始し、80年代以降は写真家、アーティスト、デザイナー、映像ディレクターなど、多岐にわたる“イメージメーカー”として、人々の記憶に残るグラフィカルな表現を生み出してきたアーティストだ。
グードは世界有数のブランドやメディアと“共犯関係”を結び、時代を反映するアイコニックな広告やアートワークを発表してきた。そのなかでも、シャネルとグードの間には長年にわたるコラボレーションの歴史がある。
例えば、90年に発表された男性用フレグランス「エゴイスト」のCM。リオデジャネイロを舞台に、すべての窓から女たちがバルコニーに現れ、恋人に向かって「エゴイスト!」と強い口調で叫ぶ映像はとびきり鮮烈でショッキングだった。来(きた)るべき21世紀を前に、新しい時代の女性像を示していたと記憶している。
92年には、ヴァネッサ・パラディが鳥かごのなかで歌う小鳥に扮したフレグランス「ココ」のCM映像を手がけた。ウェストミンスター公爵からシャネルに贈られた小さな金色の鳥かごからインスピレーションを得たというこの映像をもとに、本展では新作も発表される(その鳥かごは今でも、パリにあるシャネルのアパルトマンに保管されているとか)。
一方、グードの審美眼は、時代に先駆けて、常にボーダレスな美を発見してきた。公私ともにパートナーであったアフリカ系の歌姫グレイス・ジョーンズ。中東系の元スーパーモデル、ファリーダ・ケルファ。そして韓国系のモデルである現在のミューズ。欧米社会ではマイノリティである彼女たちの唯一無二の美を、センセーショナルかつポジティブに表現したポートレート展示も本展の大きな見どころだ。
さらに会場では、ダンサーたちがアリアを歌い回遊するパフォーマンスが展開され、巨大パノラマパネルには2017年にポンピドゥーセンターで展示された壮大なインスタレーションの映像が投影される。2つの世紀をまたいでグラマラスな時代の寵児であったジャン=ポール グード。彼独自のビザールで饒舌な、めくるめく世界が空間を埋め尽くすビジュアルプレゼンテーションは、まさに「高揚の時代」そのものを具現するはずだ。
Text:Chie Sumiyoshi Editor:Kaori Shimura
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