手法が2~3しかないアーティストは稚拙な印象。

 見る人が「何だろう?」と思わず二度振り返ってしまうような、日常の中に新鮮な驚きを与えたいと思って、作品に取り組んでいます。ポリシーは、まず絶対的に僕自身のオリジナルアイディアであること。10年後に見ても変わらぬ新鮮な驚きを与えられる普遍性を持っていること。そして、アイディアやテクニック自体を表現しているだけであって、“スタイル”を提案しているのではないということです。僕は愛とか、家族とか、幼少期の思い出とか、自分のパーソナルな部分にこだわって作品をつくっているわけではないし、特に何かひとつの作品に思いを込めるということもありません。だから、プライベートジェット、女性の靴、迷子探しのアプリ、大型作品、そしてキャビネット等々……僕は毎日30〜40ものプロジェクトを同時進行しています。そんなにたくさん!?と思うでしょう。でも、アートとデザインは表裏一体、どちらもコミュニケーションや世界観を構築するツールであって、アーティストもさまざまな手法を用いて表現することが大切だと僕は常に考えているんです。

12 shoes for 12 lovers:“ハニー”、“クライベイビー”、“ゴールドディガー”、“ハートブレイカー”、“アイスクイーン”、“ホットビッチ”、“ザ・ヴァージン”、“ジェットセッター”、“ザ・ボス”、“GIジェーン”、“ザ・ロック”と、過去の恋人たちのキャラクターをハイヒールで表現した代表作。しかし実際には11足しかない。「12 足目はひと夏の恋で、名前は“ゴースト”」。
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 1日の中だけでも、人はいろいろなことをします。哲学的に物思いにふけったり、仕事をしたり、親に電話したり、友達とふざけあったり、食べ物のことを考えたり。この世の中に一日中食べ物のことだけ、しかもポテトについてだけをずっと考えている人はいないでしょう。それと同じで、アーティストもただひとつのことだけしかできないようだと、人間の複雑さや愚かさ、そして成熟性を完全に表現することはできません。日常のコミュニケーションに置き換えてみても、語彙が豊富で言語を流暢に操ることができるほうが、より意思伝達が容易になる。だから、手の内が2〜3しかないような稚拙な感じの現代アーティストではなく、より成熟したアーティストになるためには、もっと現実的でクレバーに表現できる手法をたくさん身につけなければならないと思うんです。

 アーティストというのは、毎日同じことを繰り返すのではなく、毎回違うことをしたいと思っているもの。僕自身も、これまで手掛けた作品がつながって、自分の人生の終わりにひとつの壮大なストーリーとして完成する──そんなイメージを持って日々作品に取り組んでいます。

セバスチャン・エラズリス
アーティスト/デザイナー。1977年チリ・サンチャゴ生まれ。ロンドン育ち、現在ニューヨーク在住。サンチャゴのチリ・カトリック大学でインダストリアルデザイン、ニューヨーク大学でファインアートを学ぶ。28歳で現存の南米出身アーティストでは2人目として作品がサザビーのオークションに出品される。そのラジカルでユーモアあふれる作風は世界中のコレクターを魅了。英「i-D」誌選出の新進デザイナーにも選ばれる。著書に『The journey of Sebastian ErraZuriz』がある。

Photos:Akinobu Saito (Portrait) Text:Masami Yokoyama Edit:Kao Tani

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