自然の素材を使い、添加物はほぼゼロ
見た目もキュートな“食べるアート(芸術品)”

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「まるでアートのよう」と声があがった日本の上生菓子。

 なぜ今、日本の羊羹や上生菓子に、熱い視線が注がれるのか。

 羊羹や上生菓子は、小豆・砂糖・寒天(上生菓子の場合はこれに加え白玉粉やもち粉といった米粉)という自然の素材を使っていて、添加物はほぼゼロ。羊羹はその原型を鎌倉~室町時代に、上生菓子は江戸時代にもつ歴史ある日本の伝統食にもかかわらず、見た目はキュートかつ芸術的で、さながら“食べるアート(芸術品)”だ。乳製品や動物性(タンパク質)のゼラチンが含まれずほとんどがグルテンフリーでもあるため、卵や牛乳も避けるビーガン(完全菜食主義者)も安心して口にできると評判で、美味しさや見た目の美しさだけでなくヘルシーさも、海外での高評価の一因なのだという。

「タンパク質やビタミン、食物繊維などが含まれる小豆を原料にする羊羹は、日本の“スーパーフード”でしょう。良質の栄養素が豊富なのでエネルギー補給にもなり、疲れた時に口にすると心身のダメージ回復の助けにもなる。日本で“羊羹屋さん”と呼ばれる老舗は添加物を使っていないところがほとんどだと思います」(岩谷堂羊羹で知られる岩手県奥州市「回進堂」の菊地清代表)

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老舗和菓子メーカー14社それぞれのブースに並んだYOKAN(羊羹)。

 江戸時代から続く伝統製法の煉り羊羹「小城羊羹・特製切り羊羹」で知られる佐賀県小城市の「村岡総本舗」副社長、村岡由隆さんはこう続ける。「『フレンチパラドックス』という言葉をご存じでしょうか。フランス人はフレンチのような脂っこい、飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事を摂っているにもかかわらず、心臓病にかかる人が少ないという逆説的な現象のことです。これは、抗酸化作用があるポリフェノールを含む赤ワインを日常的に摂取しているからという説があります。

 私はこの『フレンチパラドックス』に対して、『ジャパニーズスウィーツ(和菓子)パラドックス』という仮説が成り立つのではと思っています。農学博士の加藤淳さんによると、小豆から作られるあんにはメラノイジンという抗酸化活性物質が含まれているのだそうです。小豆には、糖類を分解してエネルギーに変えるビタミンB1も豊富で、鉄分も含まれている。甘いお菓子は太る、健康によくないという固定観念をお持ちの方は多いと思いますが、羊羹は意外にもヘルシーなスウィーツといえるのではないでしょうか」。

従来の羊羹だけでなく新作も発表
米スウィーツ界のインフルエンサーも参加

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日本からは東京を中心に全国に展開する「虎屋」をはじめ、千葉の「なごみの米屋」、浜松の「巌邑堂」、東京・向島の「青柳正家」など、老舗和菓子メーカー14社が参加した。

 羊羹というと、細長い長方形の板状の形をイメージする人が少なくないが、形状や見た目、味に様々な工夫を凝らした新作も考案されている。

 静岡県熱海市で大正時代から4代にわたり続く「常盤木羊羹店」では、地元・熱海の特産品であるミカン、ダイダイを使用した「橙羊羹」や、フランスの有名コニャック「レミーマルタンVSOP」を使った「鶴吉羊羹レミーマルタンVSOP」といったオリジナリティー溢れる商品を展開。「橙羊羹」はダイダイの皮を羊羹に練り込み、コーヒーや紅茶にも合う甘くほろ苦い味わいで、柿田川湧水群として名水百選に選定され、国の天然記念物にも指定された静岡県・柿田川の源水に近い生水を使用しているのが特徴だ。「鶴吉羊羹レミーマルタンVSOP」は、高級コニャックの力強さとエレガントなアロマ、北海道産小豆の繊細な風味との“マリアージュ”が感じられる逸品に仕上がっている。

 海外発の「YOKAN」も、負けてはいない。

 米オバマ政権時代にホワイトハウスのエグゼクティブ・ペストリー・シェフを務め、マンハッタンに「パレ・バイ・パーフェクト・パイ(完璧なるパイの宮殿)」をオープンしたウィリアム(ビル)・ヨッシズ氏や、米ファッションデザイナー、ラルフ・ローレン氏の娘で全米に「ディランズ キャンディー バー」を展開するディラン・ローレン氏など、米スウィーツ界のインフルエンサーも同イベントに参加、会場に花を添えていた。

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ロリポップ羊羹を作るウィリアム(ビル)・ヨッシズ氏(右)とディラン・ローレン氏(左)。写真手前右にあるグラスの中に入っている棒付きキャンディー(2本)が、ロリポップ羊羹。

 ヨッシズ氏は、自身が考案した新感覚の「ロリポップ羊羹」を会場で提供。白あんと栗を裏ごしした羊羹をチョコレートでコーティングし、その上にキヌアをまぶして棒付きキャンディーに仕上げたこの「ロリポップ羊羹」は、日本の伝統的な羊羹に西洋のテイストを取り入れた遊び心溢れるもので、羊羹の新たな魅力を引き出していると評判になっていた。

 甘いものを食べたい。そして健康でありたい。誰もが抱くこうした思いを、日本の和菓子が現実にしてくれるかも――海外の目が羊羹に注ぐ熱い視線には、そんな期待も含まれているのだろう。

 日本の代表的な和菓子「羊羹」が、世界のスウィーツ界の中心的存在になる日は、そう遠くないかもしれない。

Photos:Hiromasa Kawamura

「羊羹コレクション in NY」に参加した14社(あいうえお順)/ 青柳正家(東京)、一久大福堂(北海道)、小布施堂(長野)、回進堂(岩手)、巌邑堂(静岡)、廣榮堂(岡山)、五勝手屋本舗(北海道)、古見屋羊羹(岡山)、標津羊羹本舗(北海道)、鈴懸(福岡)、常盤木羊羹店(静岡)、虎屋(東京)、なごみの米屋(千葉)、村岡総本舗(佐賀)