刺激がなくなったときに初めて大人の工夫や楽しみの見つけ方がわかってくる――恋愛小説の名手・山田詠美が語る「二人の時間の贅沢さ」は、人生そのものの慈しみ方を学んでいく過程でもある。

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パートナーとは結婚して8年たったいまも大の仲良し。曰く、「夫婦生活に大切なことはお互いの受け狙い」。たとえば、あまりにも「ナイス!」と思ったときは二人でそれをメモしておく。他にも、「二人の主題歌」(!)なんてものまでつくったこともあるのだとか。

――1冊目に選んでくださったのは山田さんの著作『無銭優雅』。すでに中年と呼ばれる年齢で出会った男女が、日々の会話や食事を楽しみながら「人さまにはお見せできない恋のありさま」をはぐくんでいく様子が綴られていく長篇です。実は若い頃にこの小説を読んだときは、あまりにも無邪気にじゃれあう姿にすこしたじろぐ部分もあったのですが……いざこの二人と同年代になってみると、感じ方がまったく変わっている自分に気づきました。

山田 他の人たちにかっこよく思われる必要なんてないんです。私の友人に、いわゆる「かっこいい女性」がいるんだけど、40を過ぎてから身も世もなく恋に落ちて、すったもんだを経てようやく結婚してね。「この歳になるまでこんなバカなことを面白がれるとは思わなかった!」って言うの。でも、それって本当はトレーニングの問題だから。二人でいることの面白さっていうのは、ある意味、訓練して身につけていくものなんです。だから若くても知っている人はちゃんといるし、いくつになってもわからないままの人もいる。この本はそういう慈しみ方にまつわる具体的なトピックを並べるつもりで書きました。

――特に食べ物の描写なんか絶妙ですよね。ちょっといい冷凍うどんに卵を落として、白身がほどよく固まるまで黄身が壊れないようじっくり揺すりながら食べていくとか、炊いたおからの隠し味に「小さく切った牛肉の上等」を入れるとか。

山田 江國香織さんと話していたんだけど、女性の作家って「着る物をしつこく描くタイプ」と「食べ物をしつこく書くタイプ」に分かれるんですよ。その点、私たちは食べ物を書くタイプだよねってことで一致してる。お互い食いしん坊だから(笑)。服装にしても、ブランド名なんかはほとんど書いたことがない。たとえば男の人の着たものだったら、どこそこのスーツじゃなくて、脱いだときにどんな皺があるかっていうことを書きたい。そういう所作の細部にその人の生活の豊かさが表れると思っているから。

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山田詠美『無銭優雅』(幻冬舎文庫)。友人と花屋を経営する慈雨と、古い日本家屋に住んでいる予備校教師の栄が、人生の後半から始めた恋にせっせと勤しむ姿が描かれる。甘やかなやりとりの一方で、作中に「死別」を含み込んだ文学作品の引用がちりばめられている点が特徴。

――2冊目は、結婚10年目になる共働き夫婦の日常を描いた、益田ミリさんの人気コミックシリーズ『泣き虫チエ子さん』。さっきの『無銭優雅』の言葉を借りれば、「二人だけのいとおしいルール」がたくさん出てくる作品です。例えば、ナチュラルローソンが二人のあいだでは「ナッチュー」に、育てているオリーブの木は「オリービー」から「オリービーワンダー(スティービーワンダーに由来している)」に変化し、最終的に「ワンダー」と呼ばれているという(笑)。

山田 二人だけの暗号であり、文法であり、ルールができあがっていくんですよね。喧嘩をしたとき、こじれる前に「コロちゃん」っていうぬいぐるみを間に入れることで自然と仲直りする習慣もそう。そういう二人だけのルールを確認し合うことで、仲良しでいられる時間を保てるようちゃんと努力をしている。なぜなら、その時間が永遠じゃないってわかっているから。人はいつか必ずいなくなる。エンディングをちゃんと知っているから、どんなに無邪気に見えても大人の恋愛なんです。

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