フレデリック:2005年にドメーヌの名を私の名前に変更するにあたって、父とは「私の名で、私がやる。父の力は借りない」という約束をしました。プレッシャーの伴う、とても大きなチャレンジでしたが、その価値はあったと思っています。自分や家族の名前を冠している以上、しっかり取り組んでいかなければなりません。

明日香:ご家族はみなさん、ワインのお仕事をされているのでしょうか。

フレデリック:私の弟は、レストランで仕事をしています。妻はコルシカ島の出身で、ランスのアウディで働いており、シャンパーニュの仕事をしているのは私だけです。私には18歳と11歳の娘がいますが、彼女たちが将来どうしたいと思っているのかは、わからないですね……。家の仕事をやりたいと思うかもしれないし、そうでないかもしれない。私自身が若いころはサッカーに没頭していたように、娘たちには自分の望むものをとことん追求してほしいですね。将来的に、彼女たちがドメーヌを継ぐというのであれば、そのときに私が受け入れるかどうか、ということで、現段階からそうしてほしいといったプレッシャーをかけるつもりはありません。

明日香:家族それぞれが、自分で決めた自分の道を、ということですね。共感できます。

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〈左〉並ぶとそっくりなフレデリックさん(右)と父のダニエルさん。 〈右〉まばゆい黄色の11月のエキュイユ村の風景。

フレデリック:喉も渇いてきましたし(笑)、そろそろテイスティングをしましょうか。

明日香:はい!

フレデリック:今日は4つのキュヴェをテイスティングしていきましょう。すべてのキュヴェがプルミエ・クリュのブドウから造られています。まずは「ルーヴェルチュール(L’Ouverture)」というキュヴェから。これは、2015、16、17年のワインをブレンドした、ノン・ミレジメのシャンパーニュです。ピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールで、ドザージュは5gℓです。

明日香:ピノ・ノワール由来の赤い果実にほんのりとスパイスの香りが感じられます。果実味と酸味のバランスがよく、ミネラル感がありフレッシュでエレガントな味わいですね。

フレデリック:ありがとうございます。シャンパーニュにとって、ミネラル感とエレガントさは非常に重要なファクターだと思っているので、味わいに感じていただけるとうれしいですね。 次に「ル・モン・デ・クレティアン(Le Mont des Chrétiens)2015」を。このキュヴェ名はリューディ(小区画)名なんです。シャルドネ100%のブラン・ド・ブランで、2015年のミレジメ。ドザージュは2gℓです。このシャルドネは、細かい砂に粘土と石灰が混ざった土壌で育てられています。

明日香:レモンなどの柑橘の香りがふわっとしますね。口に含むと泡がきめ細やかで、さわやかな酸味が広がります。これもミネラル感がしっかりあり、余韻も長いですね。

フレデリック:やはりミレジメなので、余韻も長く、泡も溶け込んでいると思います。

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ドメーヌの裏側の畑にて。左から「ルーヴェルチュール」「ル・モン・デ・クレティアン」「レ・ヌエ」「エクスプレッシオン・ロゼ・ナチュール」。

フレデリック:3番目は「レ・ヌエ(Les Noues)2015」というキュヴェです。これはエキュイユ村のピノ・ノワールを100%使って造ったミレジメで、2015年よりリリースしている新しいキュヴェです。この年は1362本の生産でした(笑)。

明日香:初リリースのキュヴェを味わえるなんてうれしいです。しかも1362本の生産なんて、とても希少ですね。チェリーのような香りとナッツの香ばしさが特徴ですね。ふくよかな果実味を感じつつ、スパイシーさもありますね。後半にうまみがジュワっと広がります。

フレデリック:“うまみ”というキーワード、うれしいですね。最後に「エクスプレッシオン・ロゼ・ナチュール(Expression Rosé Nature )2015」を。これも2015年のミレジメで、古木からのピノ・ノワールを100%使った、ドザージュ・ゼロのロゼ・シャンパーニュです。

明日香:ラズベリーや小さい赤バラのようなチャーミングな香りがいいですね。味わいはロゼの中ではどちらかというと軽やかで、ミネラルをしっかりと感じます。非常に好きなタイプのロゼです。

フレデリック:ありがとうございます。

明日香:最後に、フレデリックさんのこれからのプランというか、挑戦についてお聞きしたいです。

フレデリック:トライしたいことはいっぱいありますね(笑)。でも、やはりもっともっとオーガニックなアプローチを私なりに勉強しながら深めていきたいなと思っています。シャンパーニュをできる限り自然な方法で造っていきたいですね。

明日香:今後もフレデリックさんが造るシャンパーニュを楽しみにしています!

杉山明日香
理論物理学博士。ワイン研究家。唎酒師(ききざけし)。
有名予備校で数学講師を務める傍ら、ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」にてソムリエ資格試験対策講座を主宰。東京・西麻布のワインバー「GOBLIN」、パリの和食店「ENYAA Saké & Champagne」を経営するほか、ワインと日本酒の輸出入業も。東京とパリを2週間ごとに行き来する多忙な日々。著書に『ワインの授業 フランス編』『ワインの授業 イタリア編』『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座』など。

Photos:Yuji Ono Text:Asuka Sugiyama Editor:Kaori Shimura

前編

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