スペイン出身の画家、アントニ タウレの展覧会が1月16日(水)~2月14日(木)の間、銀座のイベントスペース「シャネル・ネクサス・ホール」にて開催される。日本での個展は今回が初めて。建築家の資格を持ち、世界中の劇場で舞台装飾も手がけてきた彼ならではの独特の世界観が、観る者の想像力を大いに刺激する。

アントニ タウレが描く、現実と虚構のあいだで交わされる侵食の光景

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L’Énigme, 2016 © Antoni Taulé

 建築家を経て、絵画と写真の制作に取りかかり、世界各地の劇場で舞台装飾も手がけてきたスペイン出身のアーティスト、アントニ タウレ。日本ではこれまでほとんど紹介されてこなかったタウレの国内初の個展が開催される。
 本展で公開される新作のテーマは「光の島」。1970年以来、彼が拠点のひとつとしているスペインのフォルメンテーラ島の光景を描いたシリーズだ。地中海西部のイビサ島のすぐ近くに位置するこの島は豊かな自然と景観に恵まれた地上の楽園であり、タウレにとってインスピレーションの源泉である。
 例えば、アトリエ近くの湖のほとりに立つカナコスタ巨石遺跡は、4000年ものあいだそこに存在し、果てしない宇宙的時間の概念を作家にもたらした。また、切り立った崖の奥に続くコヴァ・デ・ファム洞窟は、彼にとって光の効果を検証する実験室の機能を果たしてきた。
「海や海岸は、私にとってはひとつの境目であり、目に見えるものから目に見えないものへとつながる入口である」
 タウレが本展に寄せた言葉のとおり、「光の島」の展示作品に描かれているのは、現実的な情景のようでいて、同時に、白日夢のような虚構性に満ちた空間だ。
 絵画作品には、まさに洞窟を思わせるような、がらんとした室内に眩い光が射し込む、現実とも幻想ともつかない光景が描かれている。

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Carrelage, 1999(2018) © Antoni Taulé

 一方、写真の上に絵を加筆した作品にも同じように通路を指し示すような光が奥へと射し込むが、開口部からは生き生きとした海や空や自然が覗き、それらが「書き割り」のように画家のつくり出した虚構の世界であることがわかる。
 タウレ自身が「映像作品と絵画、写真は密接に関連していて、それらを分離させるのは難しい」と記しているように、彼の作品世界はメディアの特性を巧みに混交することによって「時間」の概念を撹乱しているともいえるだろう。絵画も写真もそこに定着された時間は止まったままだが、二つの時間をひとつの画面上で混ぜこぜにすることによって、写真が撮影されたときから絵画の筆がおかれたときにかけて流れる時間は、まるで舞台上の出来事のような現実性・空間性を帯びる。
 それはどこか、ほの暗い洞窟や森や家のなかで息を潜め、外の世界を絵空事のように覗き見るときの感覚にも似ている。それとは逆に、明るい外部から覗き込むとき、暗い内部の様子は見えにくく、軽い不安がかき立てられる(舞台上の俳優から観客席が見えないように)。
「内」と「外」の境界には、常に視線が交錯する不条理な空間が存在する。タウレの作品世界に描かれるのも、向かい合わせの現実と虚構のあいだで交わされる、不思議な侵食の光景である。

アントニ タウレ「光の島」
1月16日(水)~2月14日(木) 12:00~19:30 無休
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)
入場料:無料

Text:Chie Sumiyoshi Editor:Kaori Shimura

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