大学の卒業制作で描いた《樹》1983 麻紙・岩絵具 207×180cm

 ここで、日高の求道的ともいえる表現の変遷をたどってみたい。

 高校1年のときに入った絵を描く会で知ったセザンヌの展覧会を見たことが、彼女が画家を志す契機となる。美大受験の頃から、レンブラントやデューラーなど西洋の画家のドローイングをよく模写した。描写と余白の緊張感に惹かれていたという。大学の日本画学科在学中は、ドローイングのような習作的なものを作品にしたいと独自の表現を模索していた。そして、卒業制作となる《樹》(1983)で、空を背景にのびる樹々を岩絵具で描いた。

「樹を水平の視点で見て、それまで探し求めていたドローイング的な表現で描いた《樹》が、今日まで続くスタイルの原点になりました。この作品は私にとって、ひとつの出発点であり同時に到達点というか、常にこの作品を描いたときの、絵への向き合い方を忘れたくないと思っています」

見上げる視点に出合った《葉光》1983 麻紙・岩絵具 149×178.5cm 国立国際美術館蔵

 大学院に上がってからも水平の視点ですくっと立つ樹々を描いていたが、どうしても画面の左右上部に余白ができてしまう。その不自由さを乗り越えるのが《葉光》(1983)で偶然見つけた「見上げる視線」だった。この「見上げる視線」によって、自身が樹に包み込まれる感覚が生まれ、続くシリーズ《樹を見上げて》《樹の空間から》で奥行きのある空間や距離の表現を追い求めていくことになる。

奥行きや広がりのある空間を追い求めた《樹を見上げてVll》1993 麻紙・岩絵具 220×600cm 東京国立近代美術館蔵