生粋の読書家でもある作家たちがNikkeiLUXEの読者のさまざまな気分に寄り添う本を提案する連載。3回目は「現実を生きている時間より、物語のなかにいる時間のほうがはるかに長い」という江國香織さんが登場。本について語ることで、人生に対する態度がおのずと浮かび上がってくるのが非常に興味深い。

小説にせよエッセイにせよ、メッセージ性の強いものを読むのは苦手だという。「『とるにたらないものもの』とか『すきまのおともだち』とか、自分で書いた本のタイトルにもそういう傾向が表れていますね(笑)」
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基本の自分に戻る3冊

――1冊目はイギリスを代表する絵本作家、エドワード・アーディゾーニの『ダイアナと大きなサイ』。少女が家族と住む家の中でくつろいでいるところに、なぜか風邪をひいたサイが闖入(ちんにゅう)するというストーリーです。これを選ばれた理由は?

江國 まず、この中に出てくる「もののわかった子ども」っていう表現が大好きで。すごくかっこいい言葉ですよね。実際、大人たちの頓狂な慌てっぷりに比して、ダイアナは初めから落ち着いてふるまう。通報を受けた動物園から鉄砲を持った人たちがやってきても、サイの前に立ちはだかる勇敢さを備えている。そして、成長して歳をとった後もサイと一緒にいるという。私もダイアナみたいに生きられたらよかったのにって、思うんです。今はもう、このようにはふるまえない。

――かつては「もののわかった子ども」だったのに?

江國 そう、そのはずだったのに。ついうっかり違うことをやってしまってここにいる(笑)。ただ、サイを大事にするダイアナがすごくいい子だからといって、サイに馴染めない両親を悪者には描かない。そこにすごく安心する。子どもの主張も大人の事情も無理やり塗りつぶされない。それぞれにマイペースであることを描くことで、それぞれの人生が肯定されているんですよね。絵本としても物語としても、とても優れている本です。

エドワード・アーディゾーニ『ダイアナと大きなサイ』(あべきみこ=訳、こぐま社)。「歳とったサイの感じが白黒ページでもありありと伝わってくるのがいい。道の陰からこっそりのぞいている子どもの姿なんかもちゃんと描き込んであって、はじっこに視線が行き届いている感じもいいです」(江國)。
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