現実と虚構の狭間で観る者の感覚を揺さぶる、小瀬村真美の世界

小瀬村真美《餐》2018 ©Mami Kosemura
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小瀬村真美《Pendulum》展示風景 撮影/木奥惠三

 小瀬村真美は、まるで針の目に刺繍糸を通すようにして、現実と虚構の微妙な隙間に視線を差し込むアーティストだ。原美術館で開催されている個展では、彼女のおよそ20年に及ぶ創作の過程を見せる。

 生花や果物を集積した精密なセットをつくり込み、数カ月にわたる長期間のインターバル撮影によって数千枚もの写真をつないだストップモーションアニメーション作品を発表、その後15~17世紀の肖像画の人物像を現実に仕立てあげた映像作品で注目を集める。

 2016~17年のニューヨーク滞在中には、「宙に浮くような拠り所のないイメージがどう着地するのかの実験」(小瀬村)として、偶発的に見つけた路上のゴミや用途不明のがらくたを、スペインの画家スルバランの静物画を模してテーブル上に配置し、「静物写真」に仕上げた作品に取り組む。

 さらに、19世紀に建てられたチェルシーのタウンハウスの一室で映像インスタレーション《Pendulum》を発表。リビングに備え付けられていた大きな2枚の鏡をスクリーンに換え、そこに映り込む室内の風景が夜から朝にかけて変化していく。「振り子」に見立てたカメラの視点が規則的な動きで移動するうちに、あるときはふいに人物の影が横切り、あるときは数時間分の時間が凝縮される。このイレギュラーな視点の撹乱によって、現実の空間をまっとうにとらえた映像がまるで映画のなかに挿入された伏線的なイメージのように見えてくるのだ。

 本展では初めての試みとして、撮影に使われた朽ち果てた花や果実、映像に登場するシャンデリアのパーツで作られた「振り子」などの残骸が展示されている。いわば種明かしなのだが、むしろこれまで見えてこなかった多重構造の謎が解き明かされたようで清々しい。

 私たちの視覚は二次元と三次元、仮想現実と現実のあいだで、いままさに「振り子」のように揺さぶられている。瞬間瞬間の判断をたえず求められ、ときにはなす術もなく立ち尽くす。

 そんな不確実な現実に生きている実感があるからこそ、小瀬村が時間をかけて緻密に積みあげた静物の虚構からふっと濃縮された現実感が開かれて匂い立つとき、それは「生の視覚」を取り戻す覚醒の瞬間となる。


「モネ それからの100年」
会期:~2018年9月24日(月・休み)
会場:横浜美術館
https://monet2018yokohama.jp/

「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」
会期:~2018年9月2日(日)
会場:原美術館
http://www.haramuseum.or.jp/



Text: Chie Sumiyoshi Edit: Kaori Shimura

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