アートジャーナリストの住吉智恵さんが、開催中の展覧会や舞台芸術、注目のカルチャー情報から、未来への道標を探る連載「アートと○○」。今回は「アートと陶芸」をテーマに、現在開催中の黒田泰蔵、イケムラレイコの個展をナビゲート。

極限まで“個”を消していくストイックな姿勢が、抽象世界を純化する

[画像のクリックで拡大表示]
《白磁 梅瓶》2018年 © Taizo Kuroda Photo: Tadayuki Minamoto
[画像のクリックで拡大表示]
《白磁 花入》2018年 © Taizo Kuroda Photo: Tadayuki Minamoto

 陶芸は人類にとってもっとも古い歴史をもつ芸術のひとつだ。古代、最初期の陶磁器は手でこねた粘土を焚き火にくべて作られたと考えられている。土と火を使って器やオブジェを作るという素朴な制作プロセスは、現代まで基本的には変わっていない。

 文明の進化と文化の成熟とともに、世界各地でさまざまな陶磁器が作られてきた。陶磁器の種類は「粘土」「焼成温度」「釉薬」によって分類される。

 なかでも、カオリンという粘土を原料に高温で焼成される磁器は、陶磁器のなかでもっとも硬質で、吸水性がほとんどない。6世紀に中国で生まれた白磁の技法は、韓国や日本に伝搬するとともに、交易によってヨーロッパへと渡り「チャイナ」と呼ばれた。その滑らかな純白の肌と透光性が珍重され、芸術品としても価値づけられるようになる。

 陶芸家・黒田泰蔵は、その白磁の作品世界を独自に純化してきたアーティストである。 1966年、20歳でパリに渡り、のちに人間国宝となる陶芸家の島岡達三と運命的な出会いを果たした黒田は、カナダで陶芸を始めた。帰国後もさまざまな技法で作陶に携わるが、45歳のとき、「轆轤(ろくろ)成形」「うつわ」「単色」という3つの条件を自身に定め、白磁のみの制作に情熱を傾けていく。

 黒田の白磁の魅力は、無国籍でせいせいとした、その抽象性にあるといえるだろう。もちろんその境地は一朝一夕にたどり着いたものではない。前述の3つの条件の枠に自身の創作を限定し、極限まで“個”を消していくストイックな姿勢によって、その抽象の世界は純化されていった。熟練した職人と肩を並べる技術力をもちながら、工芸とは一線を画す、張りつめた力強さの根拠は、黒田独自の意志的な作家性にある。

 1981年の帰国以来、静岡県の伊豆に窯を構え、40年近く白磁の可能性を追求してきた黒田泰蔵の美術館では初となる個展が、静岡の美術館で開催されている。白磁のつくりだす静寂の空間に身を置き、そこにきっぱりと存在する小宇宙に思いをはせたい。

SHARE

  • sp-fb01
  • sp-tw01
  • sp-line01
400art

forrow us この記事をお伝えした
NikkeiLUXEをフォロー
して最新記事をチェック!

  • sp-fb02
  • sp-tw02
  • sp-in02