理性的なアプローチにはない、より深く生に密着した詩的な感覚が生むもの

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イケムラレイコ 《母とミコ》 1995 年 個人蔵、ドイツ
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「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」展示風景 2019年 国立新美術館 撮影:志摩大輔

 1970年代にスペインに渡り、以来ヨーロッパを拠点に創作活動を続けるイケムラレイコは、1980年代よりテラコッタや陶器の作品を手がけてきた。

 現在開催中の大規模な個展では、陶芸作品を一堂に集めたインスタレーションが大人気だ。ひときわビビッドな輝きを放つライムグリーンの展示空間では、人や動物、あるいは未知のハイブリッドな生き物たちが林立し、観る者に饒舌に語りかけてくる。

 イケムラがデビューした1970年代のヨーロッパでは、陶芸という分野はまだ正統な美術史の文脈を受け継ぐファインアート(芸術)ではなく、クラフトアート(工芸)の一分野と見なされていた。一方、当時の現代美術の潮流はコンセプチュアル・アート一色であり、そのメインストリームを外れて独自の奔流を進むことは、イケムラにとって大きな勇気をともなうことだった。それでも彼女はあえて違う道を生きる。それはコンセプチュアル・アートの概念的・理性的なアプローチにはない、より深く生に密着した詩的な感覚であった。

 やがて80年代に入って、イケムラは自身の目指す境地を陶芸の創作に求めた。「土の触感、肌に沿って何かが生まれるスリリングさ」と彼女が語るように、土と火の自然の力を通して生まれいずる「何か」は、作家の理性を超えた野性の叡智を解放させ、作品に浸透していったのだ。

 イケムラにとって陶芸の創作は、アートワールドの堅牢な枠組みのなかで闘う戦術としてだけでなく、作家として深く長く自由に呼吸し続けるための、身体や精神の力強さと健やかさを培うものだったのだろう。

 土を練り、形づくり、削り、彩り、焼く。

 猛々しさや怜悧さではどうにもならない、しなやかな発想と所作で未知のものを生み出す陶芸のアプローチ。アートに限らず、世界に美しいバランスをもたらす「何か」を孕んではいないだろうか。

 イケムラがその手で土から取り上げた無垢な生き物たちを眺めていると、そんな希望が湧きあがるのである。


「黒田泰蔵 白磁」
会期:~2019年4月9日(火)
会場:ヴァンジ彫刻庭園美術館
https://www.clematis-no-oka.co.jp/vangi-museum/


「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」
会期:~2019年4月1日(月)
会場:国立新美術館
http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/Ikemura2019/


Text: Chie Sumiyoshi Editor: Kaori Shimura

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