アートジャーナリストの住吉智恵さんが、開催中の展覧会や舞台芸術、注目のカルチャー情報から、未来への道標を探る連載「アートと○○」。今回は「アートと旗手たち」をテーマに、今後開催が予定されている2つの展覧会をナビゲート。

未曽有の状況下で、現代アートから私たちは何を見るか

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杉本博司《シロクマ》1976年

 4月23日現在、世界各地の美術館が臨時休館を続け、展覧会の中止や延期を余儀なくされている。そんな中でも一部の美術館では、閉ざされた展示室の様子を動画や画像で撮影し、ウェブ上で配信し始めている。眼前の作品を直に鑑賞できない状況でも、バーチャルに展示室を回り、素晴らしい芸術を多くの人々に共有してほしい、それがせめてもの自宅隔離生活の心の慰めになりますように、という社会に開かれた試みである。

 一方で、もしこれが、インターネットはもちろんのこと、写真や映像でアートの現場をリアルタイムで伝える媒体すらなかった時代ならどうだっただろう……と想像する。振り返ってみれば、ほんの20年ほど前でさえ、海外のアートシーンに触れることのできるメディアといえば、美術専門誌や一部の尖ったカルチャー誌、ドキュメンタリー映画くらいしかなかったのだ。

 ましてや日本のアーティストが本気で国際舞台で活動したいと志すならば、留学や助成金で渡航して、自身の身を投じるほか術はなかった。

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草間彌生《たくさんの愛のすばらしさ》2019年 所蔵:有限会社ティーパーティー

 草間彌生、李禹煥(リー・ウーファン)、杉本博司、宮島達男、奈良美智、村上隆(※生年順)。彼らはいずれも、大戦後の高度成長期以降に出現した。やがて国籍や文化の枠を超えて活躍し、国際的に高い評価を得たアーティストたちである。

 “生産”を問い直す芸術運動「もの派」を理論と実践で牽引する旗手として、近年新たに再評価が高まる李禹煥。

 壮大な歴史観が凝縮された写真作品から建築や古典芸能に至るまで、芸術領域を広げる杉本博司。

 永劫に明滅し、変化し続けるデジタルカウンターのインスタレーションで知られる宮島達男。

 そして、自由と反骨の精神を抱えた辺境の弱者を象徴する存在として、子どもや動物を描き続ける奈良美智。アニメやマンガの表現に日本美術の源流「スーパーフラット」を見いだした村上隆。彼ら2人のこの20年のジャンルを超えた活躍は、読者にもなじみ深いはずだ。

 だが、なんといっても日本が世界に誇るアーティストといえば彼女である。1957年に単身渡米した草間彌生は、NYアートシーンの奔流の渦中で挑発的な反戦パフォーマンスを仕掛け、幼少期から苛(さいな)まれてきた幻覚や脅迫観念を、おびただしい反復性を特徴とするネットペインティグやソフトスカルプチャーに投影した。以来、病室とアトリエを往復する「出口の見えない自己隔離」生活を送る彼女の苦悩、死にものぐるいの制作の日々は想像を絶するものだ。症状を抑制する唯一の手段でもある純粋な創造欲求に支えられ、今日に至るまで世界で最も影響力のあるアーティストのひとりであり続ける。