アートジャーナリストの住吉智恵さんが、開催中の展覧会や舞台芸術、注目のカルチャー情報から、未来への道標を探る連載「アートと○○」。今回は、現在開催中のヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」の見どころをお伝えするとともに「アートと源泉(ソース)」について考える。

コロナ禍で世界に先駆けてリアルな開催が実現した国際展

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ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」にて、アーティスティック・ディレクターを務めた「ラクス・メディア・コレクティヴ」の3人。撮影:田中雄一郎 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

 ヨコハマトリエンナーレ2020が開幕した。各国でアートイベントが中止や延期となるなか、国際展のリアルな開催実現としては世界に先駆けるかたちとなった。

 タイトルは「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」。AFTERGLOWとは「残光」を意味する。この奇しくも「withコロナ」の世界の未来を暗示するようなタイトルのもと、横浜美術館とプロット48を中心に、国内外から約70組のアーティストの作品が展示された。

 ヨコトリ史上初の海外からの招聘となるアーティスティック・ディレクターは、3名のインド人によるアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」(以下ラクス)。芸術祭のコンセプトを共有し理解を深めるため、彼らが参加作家とスタッフ、観客に向けて掲げたのが、5つの「ソース(源泉の意味)」である。

「独学──自らたくましく学ぶ」

「発光──学んで得た光を遠くまで投げかける」

「友情──光の中で友情を育む」

「ケア──互いを慈しむ」

「毒──世界に否応なく存在する毒と共存する」

 昨年11月のプレイベントのときには、正直なところ、この5つのテキストが意図することをつかめなかった。その後、パンデミックによって世界の見え方すら変わってしまった現在、図らずもこれらの言葉は現実味を伴って響きはじめる。

 開幕にあたり、ラクスから届いたメッセージはあくまで毅然として力強い。

「世界が変革のときを迎えているいま、その先陣を切るトリエンナーレとなった。困難な時代の癒やし、そして変革の助けとなるアートの力を提示する場になると自覚している」

 当然のことながら、今回、作品の制作と設置はオンラインのミーティングと指示書やビデオでのディレクションによりリモートで行われた。そしてフタを開けてみれば、作家のセレクトも展示もユニークで的確であり、遠隔操作で設置されたことをまったく感じさせない、生き生きとした輝きを放っていた。展示作品の中から特に注目した作品をいくつか紹介したい。

 まず、横浜美術館のファサードは、軽やかながら不穏な“仮設感”を漂わせる紗のカーテンで一面を覆われている。クロアチア出身のイヴァナ・フランケによるこのインスタレーションは常に不安定に揺れ動き、世界各地で非常事態が遍在してきた歴史を意識させる。

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イヴァナ・フランケ《予期せぬ共鳴》 2020 © Ivana Franke ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景
撮影:大塚敬太 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

 エントランスの天井からはニック・ケイヴの《回転する森》が吊り下げられ、いきなり祝祭的な光景に没入することになる。アメリカの住宅の庭によく見られるこの「ガーデン・ウインド・スピナー」はチープな多幸感を盛り上げるが、くるくる回るオーナメントをよく見れば、銃や弾丸といったアメリカ社会の“毒”を象徴するモチーフも隠れている。