――最後は青山七恵さんの『魔法使いクラブ』。こちらは、いつか魔法が使えるようになると信じている女の子の成長の過程が、小学4年生、中学2年生、高校3年生の三部構成で綴られていきます。

村田 淡々としているけれど、成長するにつれて、身体が大人になるにつれて人間関係が変わっていく残酷さがちゃんと描かれている。タイトルから想像するよりダークで、そこが好きなんです。喩(たと)えていうなら「こんなところに来てしまった」という感覚。読みながら、大学時代に恋人と密室にいたときのことを思い出しました。そんなふうに自分の記憶が覚醒する感じというか、忘れたふりをしていたものをきちんと思い出すことができるのもまた、幸せな体験だと思うんです。

 ――男の子が「男性」に変化していく過程も、やるせないですよね。

村田 対等だったはずなのに、いつのまにか搾取される相手になってしまう。そういえば、小学校、中学校時代に男子から勝手にジャッジされることがしんどかった。たとえば、好意を伝えてもらって嬉しい気持ちがある半面、自分の中にある無意識の媚(こ)びを指摘されているようで怖かったんです。そういう、当時は整理できていなかった自分の中のいろんな痛みが、これを読むことで成仏(じょうぶつ)させてもらった気がします。山田さんの『学問』とはまた別のかたちで、自分を救ってくれた本です。

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青山七恵『魔法使いクラブ』(幻冬舎文庫)。「友達との秘密の関係って、確かにありましたよね。小学校のとき、ノートに超能力者の名前を集めている子がいて、その子に“村田さんは、風の使い手だよ”って言われたことがあったんです(笑)。それがすごく嬉しかったし、当時は修行すればほんとうに身につくものだと思っていた。そういう感じが、美しく描かれています」(村田)。

 いつか失われることを運命づけられる子供時代のワンダー。体の成長とともに、いやおうなく変化してしまう関係性。それらのテーマは新作『地球星人』の中で、実にラディカルな形で昇華されている。後編をお楽しみに。

Profile
 
村田沙耶香
1979年千葉県生れ。2003年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年「コンビニ人間」で芥川賞受賞。ほかに『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』など著書多数。近刊は、人間の性と生殖の欺瞞に鮮烈な光を当てる衝撃作『地球星人』(新潮社)。

インタビュー・文:倉本さおり
ライター、書評家。『毎日新聞』「私のおすすめ」、『文學界』「新人小説月評」、『小説トリッパー』クロスレビュー担当のほか、『週刊新潮』にて「ベストセラー街道をゆく!」連載中。共著に『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』(立東舎)。

Photos:Sachiko Horasawa Interview&Text:Saori Kuramoto Edit:Yuka Okada

後編

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