「フランスの最も美しい村」とは

1982年に、フランスのコロンジュ=ラ=ルージュ(コレーズ県)にて設立された協会。フランス各地に存在する、良質な遺産を持つ小さな村の観光と経済活動を促進することを目的とし、158の村が認定されている(2018年7月現在)。人口2000人以下、最低2つの史跡建造物や自然遺産があり、観光客受け入れの態勢が整っていることなど、厳しい選考基準を通った魅力的な村々が加盟している。

繁栄と激動の歴史を重ねて今にいたる、天空の村

 外敵から村を守るため、切り立った崖や岩山の上に造られた集落のことを、通称「鷲の巣村」と呼ぶ。そのひとつとして知られるゴルドを初めて見たときの衝撃は、すさまじかった。まるで天空に浮かぶ大きな城のようで、幻想的なその景観にしばし呆然とし、しばらくその場に立ちすくんでしまった。

 ゴルドへは、パリからTGVに乗ってアヴィニョン駅で下車し、D900を東に向かう。途中、クストゥレの街の手前でD15(通称ゴルド道路)を北上し、ヴォクリューズ山地の南側の山道をどんどん上がっていく。そのカーブの途中で急に前が開け、ゴルドの村の全体と麓の平野が出現するのだ。村の頂(いただき)にはいかめしいシャトーがそびえたち、それをぐるりと囲むように、民家が階段上に建てられている。下界と切り離された桃源郷のような村の佇まいに圧倒された。

 ゴルドの歴史をひもとくと、すでに紀元前であるガロ・ロマンの時代には砦が造られ、11世紀にはゴルドの頂に城が建造されたという。以降、徐々に人々が増え、やがて鷲の巣村が形成された。14世紀には城壁が巡らされ、外部からの攻撃や宗教戦争に備えつつ、村は繁栄と激動の時代を繰り返していく。その後、1909年には地震の、1944年にはドイツ軍による空爆の被害を受けるなどして、一時は村が無人状態になったこともあるという。

 ユダヤ系の画家、マルク・シャガールはナチスの迫害から逃れるためにパリを離れて南仏を訪れた際、ゴルドの美しい村にすっかり魅せられ、この地に希望を見いだして住んでいたそうだ。シャガールが妻のベラとともに、ここに移り住んだのは1940年、第二次世界大戦が激化しドイツ軍がパリを占領した直後だった。シャガールは隠れ家に息をひそめて住み、時折散歩に出ては豊かな自然に慰められ、安らぎを得ていたという。そんな時代と変わらない自然が目の前に広がっていると思うと、何とも言えない気持ちになる。

村の広場周辺でランチや買い物を楽しむ

 村に入ると、シャトーの横の広場にパラソルを広げたカフェレストランがあり、あたたかい日差しのなか、心地いい風が抜けていく。よく冷えたロゼワインを飲みながら、生ハムや熟したトマトが入ったプロヴァンス風のサラダを食べるだけで、陽気な気分になってくる。

 ランチがすんだら、村をぶらぶら散策。不揃いでいびつな石が敷き詰められた、ガタガタの坂道を歩く。昼下がりの蜂蜜色に染まった村は、いにしえの時代を彷彿とさせ、村人が丹念に造り上げてきた石畳や石垣は、長い歴史を感じさせる。

 ハイシーズンには、蜂蜜専門店で風味豊かな蜂蜜を選んだり、薄い紫色が美しいラベンダーの石鹸やボンボン(キャンディ)を入手したりと、地元ならではの品を見つけるのが楽しくてしようがない。さらに歩くと、お洒落なプロヴァンス・スタイルの白やパールグレー色の食器や雑貨のショップにも出合える。ほかにも、田舎風ながら洗練されたレースや刺繍が入ったリネンを扱うブティックなどもあり、その組み合わせのバランス加減が心憎く、旅人の心をくすぐる。

 ゴルドは村自体も魅力的だが、さらに大きなおまけがついている。ゴルドの村の近く、ヴナスク方面に約4キロのところには、12世紀に建てられたシトー派の有名な修道院、セナンク修道院があるのだ。7月には修道僧が育てる美しいラベンダーが咲き乱れ、その見事な景観は世界的にも知られるほど。渓谷の底にひっそりと建てられた修道院とラベンダー畑のコントラストは絵画のように美しく、何度見ても感動的な眺めだ。ラベンダーが満開になるのは2週間ほどなので、これを見られるのは、奇跡に近い幸せなのではないかとさえ思う。目にした光景をしっかりと脳裏に刻みつけた。

パリからのアクセス

パリ・リヨン(Lyon)駅からTGVでアヴィニョン(Avignon)駅まで2時間40分。駅からバスでカヴァイヨン(Cavaillon)まで行き、ゴルド行きに乗り換えて終点で下車。約35分。

旅のヒント

アヴィニョンから車で、N7を経由してD900を東に向かい、クストゥレ(Coustellet)の街の手前でD15(通称ゴルド街道)に入って北上。所用時間約50分。

粟野真理子
大学卒業後、本田技研に勤務。その後、編集プロダクションで編集や海外取材を経験後、渡仏。パリに20年以上在住し、旅からモード、アートまでを網羅するジャーナリストとして活躍。『フィガロジャポン』や『マリ・クレール』日本版(アシェット婦人画報社 現ハースト婦人画報社)などで、フランスやモロッコなどを巡る旅の特集や連載記事を執筆してきた。現在も『DAZZLE』や『家庭画報』『Pen』をはじめ、ハイクオリティ・マガジンや機内誌、企業の会員誌などで取材や執筆活動を行っている。本連載のベースでもある近著に、『パリから一泊!フランスの美しい村』¥1,800(集英社)。ブログ:https://mmemariko.exblog.jp/

Photos : Grammy Sauvage Text:Mariko Awano  Edit : Kao Tani


バックナンバー

「フランスの美しい村」 Vol.6 エギスハイム(アルザス)

「フランスの美しい村」 Vol.5 ノワイエ・シュル・スラン(ブルゴーニュ)

「フランスの美しい村」 Vol.4 ルシヨン(プロヴァンス)

「フランスの美しい村」Vol.3  ピアナ(コルシカ島)

「フランスの美しい村」Vol.2 ラ・フロット・アン・レ(ポワトゥー・シャラント)

「フランスの美しい村」Vol.1 ムスティエ・サント・マリー(プロヴァンス)