「フランスの最も美しい村」とは
1982年に、フランスのコロンジュ=ラ=ルージュ(コレーズ県)にて設立された協会。フランス各地に存在する、良質な遺産を持つ小さな村の観光と経済活動を促進することを目的とし、158の村が認定されている(2018年 7月現在)。人口2000人以下、最低2つの史跡建造物や自然遺産があり、観光客受け入れの態勢が整っていることなど、厳しい選考基準を通った魅力的な村々が加盟している。
プロヴァンスの秘境に隠れた美しい村
「南仏プロヴァンスで、いちばん好きな美しい村は?」と尋ねられたら、迷うことなく「ムスティエ・サント・マリー」と答えるだろう。初めて訪れたのは12年前。某雑誌の仕事で、世界的に高名なシェフ、アラン・デュカス氏のオーベルジュを取材したときのことだ。
パリから高速列車のTGVで約3時間、エクス・アン・プロヴァンスで下車し、北東へ車で1時間半ほど村道をつらつらと縫っていく。途中には、温泉街のグレウ・レ・バンやリエズといった町を抜けていくのだが、奥に行くほどしっとりした静養地のような雰囲気になる。デュカス氏が一瞬で魅了され、最初のオーベルジュを建てた土地であるムスティエ・サント・マリーは、どれほど素敵なところなのだろうと胸が躍った。
ラベンダー畑や曲がりくねった道を抜けると、突然視界が開け、隆起した粗削りな白い石灰岩質の山と、深い谷底に抱かれているような小さな村の全景が目に入ってくる。思わず、そのダイナミックな奇観に目をみはり、心を奪われた。
デュカス氏も、村の魅力を熱く語ってくれた。「初めてこの渓谷を訪れたとき、とても興奮しました。驚くべき自然の美しさ、渓流の力強い水音、野生の草木の匂い……。すべてが、私の五感を刺激してくれるのです」
住人700人ばかりの小さな村は、古色蒼然とした家の石壁や石畳に囲まれて落ち着いた佇まいだ。岩々の間を流れ落ちる激しい清流の音が村のあちらこちらから聞こえ、その一定のリズムが心地よい。石畳を歩きまわると、いたるところに小さな噴水や湧き水があり、緑が深く生い茂るこの村がいかに自然の恵みをたっぷり享受して豊かであるかがわかる。そして、これほど辺境の地にあっても、村には観光客があふれ、川沿いの中心地には陶器のショップや土産物屋が軒を連ねる。
ダイナミックな自然に抱かれた陶器の里
ムスティエ・サント・マリーは、陶器の里として名高い。ヴェルドン渓谷の清らかに澄んだ水と良質な土に恵まれているからだ。陶器製作の歴史は、村の記録では5世紀にまでさかのぼるらしいが、陶器の里としてフランス中に名を馳せたのは17世紀後半から18世紀にかけてで、ルイ 14世の引き立てにより発展したという。
デュカス氏の取材以来、この村を何度か訪れているが、村では必ず、ムスティエ焼きの良い品がないかと探す。伝統の手法でハンドメイドの陶器を作るAtelier Bondilの陶器は、いつ覗いても素敵なものが見つかる。店主の話では、ルイ14 世からルイ 16世の治下では、ムスティエ焼きが王宮でも大人気だったそう。店内には花鳥風月や中国風の風景、紋章、気球などの柄があり、なめらかな風合いと繊細な手描きの陶器に、すっかり魅せられる。マリー・アントワネットが愛用したというバラの花柄の皿をひと目で気に入って、入手した。
陶器探しが一段落したら、村をゆっくり散策。広場やメインストリートには多くの人がいるが、路地に入ると急に静かになる。澄み切った大気の中、心がおおらかになり、視線を遥か上方の尖った岩山に移すと、夕日に染まったセピア色の小さな礼拝堂が見える。礼拝堂からは村全体が一望できるだろう。
パリからのアクセス
パリ・リヨン(Lyon)駅からエクス・アン・プロヴァンス(Aix En Provence)駅か、マルセイユ(Marseille)駅まで、TGVで約3時間。ローカル線、あるいは列車に組み込まれた指定のバス(Autocar)に乗り換え、マノスク・グレウ・レ・バン(Manosque Gréoux Les Bains)駅まで1時間。そこからタクシー(宿泊ホテルに予約依頼)で約1時間。
旅のヒント
マノスク(Manosque)から、東へ車でD952を経由して、ムスティエ・サント・マリーへ。約1時間。マノスクからD907、 D6 を経由すれば、約30分のところに、ラべンダー畑で有名なヴァランソル(Valensole)がある。
Photos : Grammy Sauvage Text:Mariko Awano Edit : Kao Tani