「フランスの最も美しい村」とは

1982年に、フランスのコロンジュ=ラ=ルージュ(コレーズ県)にて設立された協会。フランス各地に存在する、良質な遺産を持つ小さな村の観光と経済活動を促進することを目的とし、158の村が認定されている(2018年7月現在)。人口2000人以下、最低2つの史跡建造物や自然遺産があり、観光客受け入れの態勢が整っていることなど、厳しい選考基準を通った魅力的な村々が加盟している。

天然のオークルカラーに染まる村

 ルシヨンを初めて訪れたとき、村全体が燃えるような赤色に染まっているのに驚いた。そのインパクトのある光景がいつまでも忘れられず、その後、何度訪れても、その燃える赤の印象は変わらない。ほかの地域ではまず見られないこの珍しい景観は、私の最もお気に入りのひとつになっている。

 パリからはTGVか飛行機でアヴィニョンに入る。そこから車でD149を北上して約1時間で、ルシヨンに到着する。プロヴァンスの奥座敷であるリュベロンの谷の北側にあるルシヨンの地質は、オークル(赤土)だ。この鉱山から赤や黄色の顔料がつくられ、18世紀後半に絵の具や塗料の産業が大いに発達したという。この産業に貢献したのが、村出身のジャン・エティエンヌ・アスティエである。彼はオークルの砂に淡彩を施すアイデアを思いつき、赤や黄色のバリエーション豊かな顔料を生み出したという。

 しかし、20世紀には、化学原料で顔料を大量に生産する技術が発達。そのため、オークルの採掘は衰退の一途を辿ることになった。村の周辺には採掘で削り取られた荒々しい岩肌が生々しく残され、そこには往時の村の栄光が刻まれているかのようだ。

 だが意外な副産物とでも言おうか、村の家々の壁は漆喰にオークルの顔料を溶き混ぜたペンキで塗られ、燃えるような赤色や珊瑚色、深い黄色に染まった。今や村の鮮やかな景観そのものが大きな観光資源になって、村を支えている。

 初夏のプロヴァンスに降り注ぐ太陽の光線は強烈に眩しく、ドラマティックな光と陰を生む。光の効果を意識したかのような色壁は、大胆とも思えるほどカラフルで、太陽の動きとともに色調を変えていく。まるで魔法がかかったような光景に、いつしかうっとりする。

プロヴァンス暮らしに欠かせないハーブや雑貨探し

 村の中心は丘の頂上にあり、17世紀に建てられたサン・ミッシェル教会の周辺は、ハイシーズンには観光客であふれかえる。だが、一歩細い路地に入れば、静かな迷路がくねくねと続き、そこで生活する人々の息遣いが聞こえてきそうな情緒のある佇まいが続く。教会の北側に回れば、崖の上からヴァントゥー山やリュベロン山脈が見渡せ、地形的にも素晴らしい場所であることがわかる。

 村の中にはギャラリーやカフェ、雑貨店が立ち並び、散策する楽しみは尽きない。路地に入ると、素朴な木製の買い物かごを売る店、無造作に束ねた香り高いラベンダーを売る露店、タイムやローズマリー、ナツメグといったハーブを入れる缶などプロヴァンスらしい雑貨を売るブロカント(古物店)もあり、南仏気分が最高に盛り上がってくる。

 歩き疲れたら村役場の前にあるカフェに入り、特等席のテラスへ。ここからは、村を囲むこの地方特有のアレッポ松やフランス海岸松、ヨーロッパ赤松などの松林が眺められる。目の覚めるような真っ青な空のもとでは、運ばれてきたごく普通のエスプレッソがやけにおいしく感じられた。

パリからのアクセス

パリ・リヨン(Lyon)駅からTGVでアヴィニョン(Avignon)駅まで2時間40分 。アヴィニョンからはバスでアプト(Apt)行きに乗り、ルシヨンで下車する。

旅のヒント

アヴィニョンから車では、高速道路N7からA7(=D900)に入り、D149を北上してルシヨンへ。所要時間約1時間。ルシヨンから「鷲の巣村」で知られるゴルドまではD102およびD2でわずか10kmなので、併せて訪れたい。所要時間約15分。

粟野真理子
大学卒業後、本田技研に勤務。その後、編集プロダクションで編集や海外取材を経験後、渡仏。パリに20年以上在住し、旅からモード、アートまでを網羅するジャーナリストとして活躍。『フィガロジャポン』や『マリ・クレール』日本版(アシェット婦人画報社 現ハースト婦人画報社)などで、フランスやモロッコなどを巡る旅の特集や連載記事を執筆してきた。現在も『DAZZLE』や『家庭画報』『Pen』をはじめ、ハイクオリティ・マガジンや機内誌、企業の会員誌などで取材や執筆活動を行っている。本連載のベースでもある近著に、『パリから一泊!フランスの美しい村』¥1,800(集英社)。ブログ:https://mmemariko.exblog.jp/

Photos : Grammy Sauvage Text:Mariko Awano  Edit : Kao Tani


バックナンバー

「フランスの美しい村」Vol.3  ピアナ(コルシカ島)

「フランスの美しい村」Vol.2 ラ・フロット・アン・レ(ポワトゥー・シャラント)

「フランスの美しい村」Vol.1 ムスティエ・サント・マリー(プロヴァンス)