ブルージュの郊外に2.5haもの敷地、菜園を目の前に創作料理を愛でる

 ブルージュの中心から車を走らせて20分ほどの緑溢れるただなかに、2.5haという敷地をもつレストラン『ヘルトン・ヤン』はある。料理人のヒエルト・ド・マンジュレールとソムリエで客室責任者のヨへヒン・ボーダンスがオーナー。「以前、この場所は、19世紀につくられた農場でした。廃墟となっていたのを、自分たちの表現の場として選んだのです」という。この2人は2005年からコンビを組んでブルージュ市内に小さな店を持っていた。評判は右肩上がりで、2012年にはとうとう3つ星を獲得。その3つ星とともに、長年をかけてリニューアルをしたこの場所に2014年に移転した。圧巻は、メインの客室の目の前に広がる畑である。600種類もの野菜と果物を有機栽培で育て、その恵みがそのまま皿の上にのるという贅沢を追求した。「広大な自然とともにリズムを刻むというのが、レストランのコンセプトです」とマンジュレールは言う。

 ベルギーの新しい息吹を伝えたいというのも、彼の思いだ。この農場の心臓部は、1835年建造で、歴史的建造物にも指定されている民家だ。「民家は人の息吹の宿る生産の場。この建物を改装して、キッチンにしたい。そして菜園で作る食材に魂を吹き込みたい」。彼の考えは、もの作りの若手のプロたちの賛同を集めた。例えば、建物を手がけることになった、ベルギーを代表する若手建築家の一人であるドリス・ボナミ。中世からベルギーの職人芸であるリネンを今に引き継ぐミラベル・スラヴィングは、テーブルナプキンを特別につくることになった。プロダクトデザイナーとして人気急上昇中のステファン・シニョンは、テーブルや椅子、料理人の作業服やエプロンなどを手がける。

 マンジュレールの作る料理は、季節の彩りを映し出す研ぎ澄まされた料理だ。アボカドをドライトマトのパウダーで覆ったり、ラングスティーヌのタルタルに季節のフランボワーズを組み合わせたりと、高揚感をもたらすクリエイティブなサプライズがある。

 深い歴史と文化、さらに豊かな自然を抱くブルージュという懐こそ、創造の源。料理人としてその肥沃なる大地に魂を吹き込み、新たなものづくりの磁場を生み出していた。

ヘルトン・ヤン
伊藤 文
食執筆家・翻訳家。著書に『フランスお菓子おみやげ旅行』、『パリを自転車で走ろう」、翻訳書にグリモ・ド・ラ・レニエール著『招客必携』、ジョエル・ロブション著『ロブション自伝』、フランソワ・シモン著『パリのお馬鹿な大喰らい』など。近著に『パリ、カウンターでごはん』(2016年7月刊)。 日仏バイリンガルによる食のウェブマガジン&イベントプロデュース“DOMA”主宰運営(http://domapress.com)。2017年8月からはMAG2にて”美食大国フランスから 週刊食関連ニュース”を週刊配信。

Photos:Taisuke Yoshida Text:Aya Ito Edit:Yuka Okada

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